「日本の棚田百選」に選ばれている三好市井川町井内西の「下影の棚田」の景観が損なわれつつある。農家の高齢化などで耕作放棄地が増えているのが原因。危機感を持った地元住民らが生い茂った雑草の刈り取りを始め、共感した放棄地の所有者は、希望者への無償貸し出しを決めた。唯一残る耕作者も意欲を新たにし、再生への機運が広がり始めている。
下影の棚田は標高約400メートルにあり、1999年に県内では上勝町の「樫原の棚田」とともに農林水産省の棚田百選に認定された。約35枚(計約70アール)の田が広がり、当時は3戸の地元農家が米を栽培。美しい里山の風景を求め、県外からも写真愛好家らが訪れていた。
しかし、約10年前に1戸が県外に転居。残る2戸のうち、西井文雄さん(79)も年を重ねるにつれ、耕作地を徐々に縮小し、今年は耕作を断念した。一帯では雑草が目立ち始め、追い打ちを掛けるようにイノシシやサルの被害が深刻化している。
荒廃した棚田の再生に立ち上がったのは、三好市民10人でつくるまちおこしグループ「チーム・ノスタルジー」。5月末、市職員や市地域おこし協力隊員らにも呼び掛けて、背丈以上に伸びた雑草を刈り取った。
大西直人代表(59)=同市井川町井内西、市嘱託職員=は「棚田は地域の宝物。訪れる人をがっかりさせたくない」と言い、今後も定期的に草刈りをすることにしている。
西井さんと妻の寧子さん(75)は「昔みたいに大勢の人が来てくれることで地元が少しでも活気づけば」と貸し出しを決意。意欲的な担い手による栽培や、学校、企業などの農業体験の場としての活用を期待している。
一方、唯一の耕作者の西井頼男さん(50)=つるぎ町半田、会社員=は、休日に訪れ、所有する16枚の田の手入れに汗を流す。「よく遊んだ思い出深い場所を見捨てるわけにはいかない。グループの人たちの活動を見て、守っていかなければという思いをより強くしている」と力を込めた。