永祚元年というから平安中期。西暦では989年のことである。末の世まで聞こえる大風が都を襲った。「永祚の風」という。200年余り後の歴史書「愚管抄」などにも見える

 犠牲者は数知れなかったそうだ。<闇ながら夜はふけにつつ水の上にたすけ呼ぶ声牛叫ぶ声>。こちらは近代、搾乳業を営んでいた歌人伊藤左千夫が味わった恐怖ではあるけれど、なめさせられた苦しみに、平安の人々も違いはあるまい

 長く気象災害の一つの基準となった「永祚の風」。今で言えば室戸台風(1934年、第2は61年)や伊勢湾台風(59年)が、それに当たるのだろう

 全国で5千人を超える死者・行方不明者が出た、その伊勢湾に匹敵する高潮の恐れが指摘され、身構えながらこの稿を書いている。激しい風に職場の窓がきしむ。非常に強い台風24号のチャーミーというかわいい名は、全く名ばかりだ

 室戸や伊勢湾、昭和の時代。鉄やコンクリートで自然を制御できると楽観していたところがある。それが平成、どうも人の力ではかなわないぞ、と思い知らされることが増えた

 地震に台風、火山噴火とうち続く平成災害史である。温暖化も相まって、200年後の歴史家も無視し得ない30年余となろう。「平成の・・・」何と呼ぶかは想像できないが、どうやら私たちは大変な時代に生きている。