散髪の奉仕活動を60年間続けている岸田さん=板野町大寺の町養護老人ホーム「しあわせの里」

 板野町下庄の理容店経営岸田容彰さん(82)が、同町大寺の町養護老人ホーム「しあわせの里」で、月1回の散髪奉仕を60年間続けている。1956年のホーム設立時に自ら買って出て以来、休んだことはなく、回数は720回を超えた。

 岸田さんは毎月第4月曜、妻の美枝子さんや弟子ら6、7人で出向いている。自身が寄贈した理容いすに座ってもらい、丁寧に髪を切った上で毛ぞりをする。入所者30~50人の散髪を終えるのに2時間ほどかかるという。

 約20年間、散髪をしてもらっている原田田鶴子さん(86)は「髪型はいつもお任せ。わざわざ外に出なくていいし、すごく助かっている」と感謝する。

 しあわせの里は、旧板西、栄、松坂の3町村が合併して板野町が発足した翌年に開所した。岸田さんが散髪奉仕を始めたのは、ひょんなことがきっかけだった。当時、来店した町議から施設ができることを聞き、「まるで自分が老人ホームを作るように偉そうに言うので、『なら自分が散髪をする』と勢いで言った」と笑う。

 一度言い出したからには後に引くことはできず、両親と一緒に約3キロの砂利道を自転車で通い続けた。生まれたばかりの長男を背負って通ったことも、いい思い出だ。

 岸田さんは「子どもはお年寄りがあやしてくれた。いつも待ってくれているのが励みになったし、弟子の修業にも役に立った」と笑顔を見せる。

 80歳を過ぎた今も店に立つ岸田さんは、3年前まで、若手理容師らが散髪の技術を競う全国大会に出場していた。自宅近くの神社の清掃も10年以上続けており、年齢を感じさせない。今後も、健康が続く限り奉仕を続ける考えだ。