「自分のための仕事ではなく、いかにお客さんに喜んでもらうか。その一念だ」。瓦ぶきや木造の日本建築を中心に手掛ける大工として兵庫県伊丹市で工務店を開き、45年になる。同県周辺の民家や工場を造るだけでなく、後進の育成にも力を注ぐ。

 穴吹町口山(現美馬市)で4人きょうだいの次男として生まれた。山地の生活は厳しく、中学卒業後は鴨島町(現吉野川市)の職業訓練校で1年間建築を学び、学校の紹介で大阪市の住宅メーカーに入った。しかし、思い描いていた大工の仕事とは懸け離れていたため、数カ月で退社。父親のつてを頼り、伊丹市の工務店で腕を磨いた。

 現場をこなすうちに伝統的な日本建築や流行の家造りを学び、24歳の時に独立。丁寧な仕事が評判を呼び、途絶えることなく仕事が舞い込んできた。「仕事は口コミで広がる。一つの現場には協力業者の職人も含めて数十人が出入りしており、一人一人の仕事が次の仕事を招く営業なんだとの意識を徹底している」

 大工技能者の育成を目指して2003年から国土交通省所管の公益法人が始めた大工育成塾に参画し、研修生を受け入れてきた。「今後は新築よりリフォーム需要が増えるだろうが、改築こそ臨機応変な対応が必要で、高い技能が求められる。できる限り技術伝承に努めたい」と話す。

 実家は既にないものの、古里とのつながりは今も深い。4年前から美馬市の住民が伊丹市を毎月訪れ、農産物などを販売する産直市を開いており、その開設場所の選定や運営にも協力している。

 産直市を主催する「美馬のええもん推進協議会」副会長の武田大三郎さん(69)は中学の同級生。「古里の懐かしい顔や食べ物を見たらほっとする。同級生に頼られたら嫌とは言えんしね」とはにかんだ。

 おおみち・こうきち 口山中を経て修成建設専門学校卒。1972年に大道工務店を設立。2015年、長年の活躍や後進育成に努めた功労者として国交省住宅局長表彰を受けた。近畿美馬市ふるさと会理事などを務める。69歳、伊丹市在住。