カモの目になってみれば、三日月湖のように見えるのかもしれない。<鴨引くや十万年は三日月湖>。福島県須賀川市に暮らす俳人永瀬十悟(とおご)さんは原発事故後、「三日月湖」のように残された、放射線量の高い地域に心を寄せる

 学生時代に環境調査のため通った、その地が無害になるのはいつの日か。途方もない歳月を要す。離れざるを得なかった人たちのやるせなさ、切なさ、悲しさ。言葉にできない、そんな思いを俳句という器に盛り込む

 事故が起きた1カ月後。春の陽光の中、カッパを着てマスクをした小学1年生を囲む列が信号機の前に止まり、不安そうに空を仰いでいた光景を忘れることができないと言う

 今を詠まないわけにはいかない。2011年、「ふくしま」50句で角川俳句賞を受賞。7年半余、ずっと福島を詠み続ける

 <村ひとつひもろぎとなり黙(もだ)の春><六千人働く廃炉盆の月><暮れ急ぐ無人の町や虎落笛(もがりぶえ)>。出版されたばかりの句集「三日月湖」(コールサック社)を開けば、ニュースからこぼれ落ちている街の声なき声が聞こえてきそうである

 取り返しのつかない事態が起きれば、産土(うぶすな)は傷つく。取り残された「三日月湖」がそう教える。電気の恩恵を受けながらも、原発の再稼働がじわりと進んでいることを危惧する。引き返せるうちに引き返さなければ。