NHK「西郷どん」にも最後の語りで登場する島津有理子アナが退局した。医師への道を目指し、勉強を始めるという。44歳の背中を押したのは、「生きがいについて」と題する本だ

 「読んでいるうちに、自分の内面と向き合い、幼い頃からの思いをかなえるべきではないかと思うようになりました」。案内役を務めていた番組で紹介した本が、司会者自身の人生を変えた

 著者の神谷美恵子さんは、ハンセン病で隔離された人々に寄り添った精神科医だ。未来を絶たれた人は、生きる喜びを見いだせるのか。患者たちの肉声が読者の胸を貫く

 「点字舌読」。視覚と指の感覚を失った患者は、舌と唇で点字を読み解くという。音楽や文学と出合い、光明を見いだした者は「唇がしびれ、舌先から血がにじみ出る」努力もいとわない

 勉強でも、社会貢献でも、一念発起に「遅すぎる」はない。島津さんの決断に胸を熱くしていたら、安倍首相が打ち出した「生涯現役社会」に、複雑な気分になった。企業の継続雇用を、70歳にまで引き上げるという

 長年勤めた会社で、60代も過ごす。ぞっとする人、ありがたく思う人。年金はどうなる、と心配する人。それぞれの生き方に直結する。人生100年時代と諭されても、人の一生は筋書きのないドラマだ。もう一度、かの本を読みたくなった。