「自分事」から生まれたアイデアなら楽しくチャレンジできる。

 2014年に東京から三好市に移住し、廃校を活用したカフェを開いた。移住なんて全く頭になかったけど、たまたま訪れたらすごく面白そうな場所だったし、学校は趣深かったし、単純にここで自分の仕事をしようと思った。

 別に勇気があったわけでも、思い切ったわけでもなくて。クリエーティブ業界には「他がやっていないことを見つける」とか「新しいことをやる」という課題がいつもある。自分では一歩踏み出したと思っても、他からもっと踏み出している人がいたという世界。だからみんな、踏み出し続けている。職業病かもしれない。

 デザイン業とカフェ経営に加えて、今春からゲストハウスの運営を本格化させた。県西部のゲストハウスはいま、日本の原風景を見に来た外国人であふれている。彼らにどうやって日本を体験してもらうか。そこで仕事をつくるのはもちろん、ネーティブとすぐに触れ合える、あちこちで英語が飛び交う環境は教育という切り口で見ても面白い。可能性はたくさんあって、アワードを通して、それらを一緒に追いかけられる人が増えたらいい。ここの周りの廃校もいっぱい空いている。

 事業のアイデアは「自分事」から。私の場合、息子と遊びたい場所をつくるというのがベースにあった。息子がまだ赤ちゃんだったら赤ちゃん向けの何かを考えただろうし、小学生になったら小学生向けの何かを考えるんだろうと思う。自分の生活とつながっていることの方が楽しくチャレンジできる。

 これからの時代は本当にどうなるかわからない。企業に所属していれば安心ということはないし、一つの仕事しか持たなければ、それにすがらなきゃいけなくなる。幾つも仕事を持って「これがだめでもこっちがある」という状態の方が安心して過ごせるんじゃないか。徳島に来てからそう思う。

 うえもと・しゅうこ 広告デザイン事務所勤務を経て1999年、ITベンチャーのテオーリア・コミュニケーションズ(東京)の設立に参画。ソニーをはじめとする大手企業のウェブ制作に携わる。2000年、テレビCM制作大手のティー・ワイ・オー(同)に吸収合併され、同社執行役員。顧客企業のブランディングを主に手掛ける。13年、事業譲渡に伴い再設立されたテオーリア・コミュニケーションズのクリエーティブディレクターに就任。14年、ハレとケデザイン舎設立。千葉県出身。三好市在住。44歳。