「無知の知」を広辞苑の第七版で引いてみる。善美や徳についての無知を人間の知恵の本来のあり方とする、プラトンが示したソクラテスの根本思想、とあった
先日開かれた「徳島新聞女性クラブ」の講演で、ジャーナリストの池上彰さんが締めくくりに述べたのは、この無知の知である。知ったかぶりをしない、自分は知らないと自覚することこそが大事だと。そんな心構えを教えてくれたのは亡き父だったようだ
米寿を過ぎ、体が弱り寝たきりになった父からある日、広辞苑を買ってくるよう頼まれる。それから父は、枕元に置いて少しずつページを繰り、読み進めていたという。<小説ならともかく、辞書を読むなんて>。その旺盛な知識欲に圧倒されたと自著「学び続ける力」(講談社現代新書)に記す
大学と縁はなかったが、仕事帰りに当時一般にも開放されていた大学の図書館に立ち寄り、英語の勉強をしていたという父。学ぶことは生きることだったのかもしれない
「好奇心と向学心を持っていれば、しわや白髪が増えたとしても若さを保つことができる」。そう語った池上さんの「宝物」は、形見となった、広辞苑の第四版だという
<世界が明日終わりになると知っていても私は今日リンゴの木を植える>。池上さんは、こうありたいと願っている。小欄もこれに倣う。