田んぼのあぜ道を散歩していると傍らを1匹のトンボが音もなく追い抜いていった。黒く、大きい。オニヤンマだ。すーっと真っすぐ飛ぶ姿は悠然としていて、他のトンボとひと味違う。一筋の墨の線を描いているかと見まがうほどに美しい
思えば10月も中旬。オニヤンマは暑気を切り裂く印象だが、はて。でも、俳句の季語でトンボは秋
高知県四万十市にあるトンボ自然公園の杉村光俊さんに聞けば、オニヤンマは10月半ばごろまで見られ、異常ではない。あぜ道を過ぎ去ったのは今季わずかに生き残った1匹だったか
問い合わせついでにオニヤンマの名の由来を教わると、体のしま模様が鬼のパンツと似ているからとか。ならば「トラヤンマ」が本来では・・・。へりくつはよそう。オニの名は堂々とした風格にふさわしい
気掛かりなことが、と杉村さん。尋ねれば、オニヤンマを苦手とする子どもが増えているという。トンボ公園を訪れる子でさえ、服にとまれば鬼の形相で振り払ったりするとか。「身近なものじゃなくなっているからでしょう」。何とか改善したい、と切実だ
秋が深まり、主役は赤とんぼに移る。ただ、代表格のアキアカネも田んぼの減少などが原因で数が減り、身近とは言えなくなっているそうだ。徳島県では絶滅危惧種。トンボの哀歌にさて、どう反応しよう。