自治医科大(栃木県)で病理学講座の教授として、病理診断と研究、学生教育を行っている。
病理医は、臨床の医師が患者から採取した検体を顕微鏡で検査し、病気の原因や進行度合いなどの病態を探る。その所見を臨床医師にフィードバックしていく。病理診断は一般的にはなじみが薄いが、重要な役割を担っている。
「この十数年で随分、医学は進んだ。肺がんもいろんなタイプがあり、原因となる遺伝子の異常が違えば、治療法も変わる。病理医が果たす役割も変わってきた」と言う。
専門の研究分野は肺がんで、一部の肺腺がんの発生に関わるとみられる遺伝子の変異を発見した。国立がん研究センターの間野博行研究所所長との共同研究だ。
肺がんの転移の研究にも取り組んでいる。がんが他の臓器に転移して増殖するメカニズムを究明し、治療法の確立につなげるのが狙いだ。
「日本人がノーベル賞を取るたびに、基礎研究の大切さに焦点が当たるが、医学部を卒業して病理医になるのは1%弱。日本では基礎研究の人口も論文も減っており、危機感を持っている」と語る。
東大時代は漕艇部でボートに熱中し、埼玉県戸田の合宿所から大学に通っていた。
徳島で過ごした中学時代はバレー部員。時折、帰省する古里は人口減が深刻だ。「いつも徳島は活気のある町であってほしい。研究する時、本に書いてあることを8割くらいはまず受け入れる、でも残りの2割で『しかし本当にそうかな?』と自分自身の発想で考える。独創性のある視点を持ってないと、大きなものに飲み込まれてしまう」
県内では山間部などで医師不足も続く。へき地医療を担う医師を養成する自治医大教授として「全寮制で学生の上下のネットワークがしっかりしていて、卒業後の先輩の存在もプラスになる」と大学をPRした。
にき・としろう 徳島市出身。徳島大教育学部付属中学から灘高校、東京大医学部卒。1987年、東大医学部病理学講座助手。国立がんセンター研究所病理部室長、東大医学部人体病理学講座助教授を経て、2005年から現職。著書(共編著)に「標準病理学」(医学書院)など。東京都荒川区在住。60歳。