兼好法師が徒然草に記した。「大欲は無欲に似たり」。この一文の意味として二つ、日本国語大辞典は挙げる。<1>大きな望みを持つ者は、小さな利益に目もくれないから、欲がないように見える<2>欲の深い者は、欲のためにかえって損をしがちで、欲のない者と同じ結果になる|

 同じ結果どころか、といった話だ。ありもしない土地取引に引っ掛かり、約55億円もの特別損失を出した積水ハウスである。所有者に成り済まして土地を売買する「地面師」グループの摘発は始まったが、闇に消えた金がどれほど戻ってくるか

 舞台になったのは、都内品川区にある廃業した旅館の敷地だ。約2千平方メートルというから600坪余り、契約額は70億円。売りに出されないことで有名だったとはいうが

 詐欺の可能性を示す情報を得ていながら、「妨害工作」として取り合わず、突っ走った。結果だけを見れば、欲に目がくらんだとしか言いようがない

 だが仮に正当な取引だったとすれば逆に、迅速な意思決定が巨額の利益をもたらした、と称賛されたはずである。欲は資本主義の原動力だ。その辺の経営の機微は、大金が絡めばなおさら、何が正しいか即断しにくいところはある

 ともあれ、小金とも縁の薄いわが身とあれば、「大欲は|」。分かっちゃいるけど、そうはいかないから警句は古びない。