鳴門市の新庁舎整備を検討している有識者会議(委員長・田中弘之鳴門教育大副学長)の議論が大詰めを迎えている。「現本庁舎を取り壊して事業費を抑えるとともに、防災対応の新庁舎を整備したい」とする市の計画案に対し、有識者会議が近代建築の名作とされる現本庁舎の価値をどう評価するかが焦点となっている。
「今この場で壊すかどうか決められない。もっといろんな意見を聞きたい」。9月下旬に開かれた4回目の有識者会議。現本庁舎の解体をためらう声が相次ぎ、8月下旬の第3回会合に続いて判断を見送った。
有識者会議が検討している2案のうち、市は現本庁舎を解体して現地で建て替える案を推している。耐震化した現本庁舎と新庁舎を併設する「2棟案」より、今後40年間で10億円ほど市負担額を抑えられるためだ。地盤のかさ上げなどによる津波浸水対策も、建て替え案の方が対応しやすいという。
市が、現地での新庁舎整備を優先させるのは、新たな土地の購入費が不要で、市中心部にある利便性などからだ。7月に行った市民アンケートで、回答者1285人の77%が現地での整備を希望したことも後押しした。
現本庁舎と隣接する市民会館は、モダニズム建築の権威とされる京都大元名誉教授で建築家の増田友也(1914~81年)が設計し、専門家から高い評価を受けている。それでも市が経済性を優先するのは、厳しい財政事情がある。
市の借金に当たる市債残高は、2017年度末時点で18年度当初予算(241億円)を超える274億円に上る。これに対し、市の貯金に当たる基金は30億円と、類似自治体の3分の1以下にとどまる。財政指標の実質公債費比率と将来負担比率は、いずれも県内ワーストだ。
「現本庁舎を残すには、市民の理解が欠かせない」と市幹部は強調する。アンケートでは、現本庁舎が建築物として評価されていることに、回答者1357人の58%が「関心なし」と答えている。
一方で「関心あり」との回答も37%あるため、有識者会議は「無視できない」として議論を重ねている。
市が示した2案以外にも、現本庁舎と市民会館を他の目的で有効活用するとした提案もある。委員や市民からは、カフェや企業のサテライトオフィス、図書館、美術館といった案が出ている。
建築の文化や歴史的価値と、費用対効果をどうてんびんに掛けるか。有識者会議は22日の第5回会合で引き続き議論する。
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