消費者や利用者の安全を何よりも優先するのが、社会的責任のはずである。企業倫理を順守する精神は一体どこへいったのか。

 大手油圧機器メーカーのKYBと子会社が、地震に備えて建物に使う免震・制振装置の検査数値を改ざんし、製品を出荷していた。

 改ざんの疑いがある装置を含めると、全国のマンションや自治体の庁舎、教育施設など1095件で使われているという。影響は計り知れず、KYBの責任は重大である。

 徳島県内は9件あり、具体的に県立中央病院とNHK徳島放送局(以上徳島市)、吉野川医療センター(吉野川市)での使用が判明した。

 両病院は災害時の救急医療を担う拠点病院である。中央病院は設置した20本のうち、現時点で13本が契約基準外だとされる。早急に交換するよう県が要請したのは当然だ。

 不正があったのは、油圧を使って地震の揺れを吸収するオイルバンパーという装置。性能検査で、国や顧客の基準に適合しなかった製品のデータを不当に書き換えていた。

 「納期を守りたいために正しい作業を省いた」と説明するが、到底通用するものではない。防災の基盤を揺るがす行為である。収益至上で安全を軽視していなかったか、徹底的に検証すべきだろう。

 KYBは免震・制振装置の分野で、国内シェア4割強を誇る。業界大手だから頼ったという利用者は多いはずだ。

 南海トラフ巨大地震や中央構造線地震への警戒を強めている徳島県民はもちろん、国民全体の安全・安心をないがしろにする、重大な背信行為というほかない。

 国土交通省やKYBは「震度7規模の地震でも倒壊する恐れはない」とするものの、基準に不適合な装置をそのままにしていいはずはない。

 建設業界は深刻な人手不足のため、装置の取り換えには2年程かかるという。できる限り早く交換できるよう、全力を挙げてもらいたい。

 子会社の従業員が8月、改ざんの疑いを指摘した。不正は遅くとも2003年から続いていて、8人の担当者が口頭で引き継いできたという。

 建物の耐震を巡っては3年前、東洋ゴム工業による免震ゴム偽装や、旭化成の子会社などによるくい打ち工事のデータ改ざんが発覚した。05年には、設計士がマンションやホテルの耐震強度を偽装した事件も起きている。

 命を脅かす不祥事だけに、その都度、不正の一掃が叫ばれてきた。なのにKYBはこの間も不正を続けてきたことになる。自浄作用が働かなかったことにがくぜんとする。

 耐震事案に限らない。昨年来、神戸製鋼所や三菱マテリアル、東レ、日産自動車などでも、品質に関する不正が相次いだ。

 日本のものづくりが誇ってきた製品の信用が崩れている。どこかに不正がはびこっていないか、製造業は今一度厳しく点検する必要がある。