ある特定の価値観や趣味を持つ人にとって神聖な場所を指す「聖地」。近年、訪ね歩く「聖地巡礼」がブームになり、各地も新たな観光資源として売り込みに力を注ぐ。徳島県内にもユニークな「聖地」が存在し、国内外の“巡礼者”を引き寄せている。
金長大明神 ジブリ映画に登場
存廃問題に揺れる小松島市の金長大明神(通称・金長神社)は、ジブリ映画「平成狸(たぬき)合戦ぽんぽこ」(1994年)で描かれたことから、「ジブリファンの聖地」として知られるようになった。
昨年7月、取り壊し計画が持ち上がり、住民有志が12月に「金長神社を守る会」を立ち上げた。インターネットで反対署名を募ったところ、世界52カ国から1万筆以上の署名が集まった。
最寄りの南小松島駅にある観光案内所によると、以前から神社への観光客が継続的に訪れており、多い月は10人以上に及ぶ。最近はテレビなどで存廃問題が取り上げられ、県外からの問い合わせが増えたという。
今年1月からは「守る会」が毎月1回、清掃活動を実施。今月7日の活動日には、存廃問題をテーマにした作品に取り組む富岡東高校放送部も参加した。
徳島小松島港への寄港中に訪れた豪華客船「にっぽん丸」の乗組員渡辺葵さん(29)=栃木県真岡(もおか)市=は「いろんな聖地を巡るのが好きで、存廃を巡る問題を知って来てみようと思った」。
お松大権現 愛猫家が大勢参拝
阿南市加茂町の「お松大権現」は約1万体の招き猫が祭られ、「猫好きの聖地」としてにぎわう。「勝負の神様」として長年地元で親しまれている一方、インターネットや会員制交流サイト(SNS)を介して有数の猫スポットとして全国に広まった。
動物写真家・岩合光昭さんが写真集「日本のねこみち」に掲載し、テレビ番組などでも取り上げられた。
阿瀬川寛司社主(71)は「近年は猫ブームの影響で愛猫家の参拝客がかなり増えている」と驚く。連休には県外ナンバーの車が並ぶほか、海外からの訪問者も多いという。
高松市から訪れた黒島弘英さん(42)、理恵さん(41)夫妻は猫好きで、愛猫家の親戚に紹介された。理恵さんは「境内の至る所に猫の置物があり、宝探しみたいで楽しかった」と話した。
勝浦町「化石」 三好市「妖怪」 国内外からファン集う
8月に国内最古級の恐竜化石含有層(ボーンベッド)などが発見された勝浦町。恐竜の歯の化石が初めて発見された94年以来、「化石愛好家の聖地」となっており、さらに価値が上がった。
「恐竜の町」を売り込むNPO法人阿波勝浦井戸端塾の稲井稔理事長(78)=同町三渓=は「発掘現場は私有地なので立ち入りできないが、近くで愛好家らしき人をよく見る。今年は発見の影響で特に多い」と受け止める。
化石探しを体験できるウオークラリーには県内外から毎年約100人が参加しており、今年は11月23日午前9時に人形文化交流館に集合して催される。
三好市山城町は、鳥取県境港市や岩手県遠野市と並ぶ「妖怪ファンの聖地」だ。2010年には道の駅・大歩危内に妖怪屋敷を開設。妖怪のモニュメント25体が点在する妖怪街道を整備している。
「訪問者は増え続けている。平日でも多くの外国人観光客を見掛ける」。妖怪で町おこしを進める住民団体「藤川谷の会」の宮本敬会長(69)=同町上名=は喜ぶ。
妖怪の着ぐるみ約60体が練り歩く妖怪まつりは11月25日午前11時から旧上名小学校で開かれる。