鳴門市の新庁舎整備を検討している有識者会議は22日、現本庁舎を取り壊して跡地に新庁舎を整備するとした市の「建て替え案」を支持するとの結論をまとめた。モダニズム建築の名作とされる現本庁舎を保存するための負担に、市民の理解が得られないと判断した。市はこれを踏まえて年内に基本計画を作成し、2020年度の着工を目指す。
うずしお会館(撫養町南浜)で開いた会合には、鳴門教育大副学長の田中弘之委員長ら委員7人が出席した。
委員は、現本庁舎と隣接する市民会館を解体し跡地に新庁舎を建てる「建て替え案」と、現本庁舎を耐震改修して継続利用しながら、隣接地に新庁舎を整備する「2棟案」のメリットやデメリットについて意見を交わした。
その上で、建設費や完成後の運用管理費などを合わせた今後20年間の市負担額が「2棟案」の46億円に対し、「建て替え案」は38億円と8億円安くなる点や、「建て替え案」の方が地盤のかさ上げによる津波浸水対策が可能になる点などを評価した。
委員からは「アンケートでもコスト抑制を求める意見が多く、市民に負担を掛けられない」との声が出る一方で、「現本庁舎を庁舎以外に活用する策を探り、まちづくりに生かすべきだ」との意見もあった。田中委員長が「建て替え案」を結論とすることを諮り、異論は出なかった。
現本庁舎と市民会館は、モダニズム建築の権威とされる京都大元名誉教授で建築家の増田友也(1914~81年)が設計した。
【解説】費用重視、市民に配慮
鳴門市の新庁舎整備を検討してきた有識者会議が、現本庁舎の解体をやむを得ないと判断したのは、経済性や防災対策を重視する市民の意見に配慮したためだ。
7月に市が行った市民アンケートでは、現本庁舎が建築物として評価されていることに回答者1357人の58%が「関心なし」と答えた。37%あった「関心あり」との回答の中にも、コストの抑制を求める意見が少なくなかった。
多額の費用をかけて現本庁舎を残しても、それに見合うメリットがあるのかどうか。有識者会議は、これまで5回にわたり議論を重ねた結果、「市民の理解を得られる保存策は見いだせない」との結論に至った。
とはいえ、現本庁舎の建築的価値は十分に知られておらず、「性急な議論に熟考する時間がなかった」と残念がる市民もいる。
現本庁舎を含め、市内には文化会館や島田小など19棟の増田建築がある。市は、それらの存廃や活用策について、明確なビジョンを示す必要がある。