国際社会の核兵器廃絶への取り組みに逆行するばかりか、中国を巻き込んだ新たな軍拡競争に火を付ける危険をはらんでおり、到底容認するわけにはいかない。

 トランプ米大統領が、米国と旧ソ連が結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約から離脱すると表明した。

 条約を引き継いだロシアが違反してきたから、というのが最大の理由だ。加えて、条約に縛られない中国による中距離ミサイル開発も批判し、中ロが軍拡を抑制しなければ米国は兵器開発を進めるとの意向を強調した。

 中ロへの危機感に理解を示す向きもある。しかし、条約に代わる抑止の枠組みが見えない中での離脱は、欧州やアジアの安全保障にも重大な影響を及ぼすだけに、無責任すぎる。

 ボルトン米大統領補佐官がモスクワを訪れ、ロシア側にトランプ氏の意向を伝えたようだ。正式に通告されれば6カ月後には失効する。両政府は、条約の履行と相互不信の解消に向け、早急に協議を進めるべきだ。

 INF廃棄条約は、冷戦時代の1987年に調印され、88年に発効した。

 両国の地上配備の中・短距離ミサイル(射程500~5500キロ)を3年以内に廃棄すると定めた、史上初の特定兵器の全廃条約だ。冷戦を脱し、核軍縮の潮流を生み出す歴史的な転機ともなった。

 ただ、条約を巡っては長く批判合戦が繰り広げられてきた経緯がある。

 米国はオバマ政権時代に、ロシアによる巡航ミサイル発射実験を条約違反と認定。さらに昨年3月には、ロシアが条約に違反し、新型の地上発射型巡航ミサイルを配備したのを確認したと発表した。

 これに対し、ロシアは違反を強く否定し、米国にも非があるとする一方、プーチン大統領が条約からの離脱を示唆したこともあった。

 それでもオバマ、プーチン両氏は離脱に踏み切らなかった。核軍拡競争への歯止めがかからなくなるからだ。

 トランプ氏は、オバマ氏が唱えた「核なき世界」とは一線を画す姿勢を鮮明にしている。2月に発表した核戦略文書「核態勢の見直し(NPR)」では、爆発力の小さい低出力核弾頭の開発などを打ち出した。

 米ロは、2021年に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長問題も抱えている。離脱することになれば影響は避けられず、3年後には米ロ間で、核軍縮に関する条約が全くなくなってしまう事態も想定される。

 今回のトランプ氏の表明には、ロシア軍と敵対する欧州諸国をはじめ、日本の被爆者らからも懸念や批判の声が上がっている。当然だろう。

 米国や中ロは核への依存を強めている。北朝鮮の核の脅威にさらされている日本としても、新たな軍縮への体制や枠組みづくりに積極的に取り組む必要がある。