第1次大戦中、徳島県鳴門市大麻町にあった板東俘虜(ふりょ)収容所に関する資料31点が新たに見つかった。ドイツ兵捕虜が印刷した所内行事のプログラムで、これまでに知られていなかった食事会の開催案内もある。豪華なメニューや運動大会の概要が謄写版印刷で記され、捕虜らの豊かな食生活や活気ある暮らしぶりがうかがえる一級資料だ。
資料は1917~19年に収容所であった行事のプログラムで、二つ折り縦27センチ、横20センチが多い。内容は音楽会19点、祝祭行事5点、演劇会3点、食事会と運動大会が2点。このうち食事会は、収容所新聞「ディ・バラッケ」にも未掲載だ。
17年11月の「テニストーナメント終了食事会」のプログラムは、サーブを打つ選手のイラストが表紙を飾る。「極上各種肉のパテ」「ローストポーク」などのメニューが並び、ケーキやコーヒー、ワインは別料金と記している。「ハンガリー風ロンド」など5曲の演奏リストもあり、食事とともに音楽を楽しんでいたようだ。
18年2月の「ヴォースター記念義援大食事会」では、ドイツ系の葉巻製造会社ヴォースター社が料理を提供したことを紹介。ドイツ帝国の国旗や、寝そべって葉巻を吸う人の姿が描かれている。将校ら4人の名前が参加者として載っている。
「キャビアと焼き白パン」「雄牛のテールスープ」といった豪華なメニューが並び、ビールを「泡立てた大麦汁、日本風」と冗談交じりに表現している。
運動大会のプログラムでは、テニスがハンディキャップ制のトーナメント、サッカーやドイツ式野球は多くのチームの総当たり戦で、活発に行われていた様子が伝わる。
収容所のプログラムに詳しい「徳島謄写印刷研究会」の小西昌幸事務局長は「板東の地で文化的な営みがあったことに改めて感動する。洗練されたデザインの資料が多く見られ、価値ある宝が増えてうれしい」と話す。
資料は、収容所で印刷物のデザインを手掛けたことで知られるグスタフ・メラーさん(1890~1940年)が解放後、祖国に持ち帰ったプログラム100点を綴(と)じた冊子の中から見つかった。
6月1日のベートーベン「第九」アジア初演100周年に合わせて初来日した孫ペトラ・ボルナーさん(68)=スイス在住=が冊子を市に寄贈。ドイツ館学芸員の調査で、未所蔵資料31点が含まれていることが分かった。同館で新資料を紹介する特別展を12月27日まで開催中。