昔ながらのはで干しが行われている棚田。今ではほとんど見かけなくなった懐かしい光景が今も残る=神山町鬼籠野

 神山町内で車を走らせていると、懐かしい光景が目に飛び込んできた。棚田の中に、刈り取った稲が「はで干し」されており、思わず車を止めて山の斜面を駆け上った。

 両端に三脚を組み、「なる」と呼ばれる丸太を置いて、そこに収穫したばかりの稲を掛ける。乾燥させるのが目的で、逆さに干すと茎や葉に残った養分が実に集まり、うま味が増すともいわれる。先人が生み出した知恵だ。機械化によって最近はあまり見かけなくなった。

 地域の稲作自体も、過疎化や高齢化が進み衰退気味だ。稲刈り中の高橋悌一郎さん(77)=神山町鬼籠野=は「昔はずっと上まで田んぼがあった。今は集落の4軒だけが続けている」と話し、周囲の棚田を見渡す。

 高橋さんも、やめようと思った時があったそうだ。それでも代々伝わる棚田を放置するわけにいかないとの思いから、毎年6月が来れば苗を植える。

 収穫を経て新米を口にするのは11月。家族で食べるほか、親戚らにも分けており、「皆からおいしいって言われると、うれしいなあ」と顔をほころばせた。