郵便事業が国営だった時分、年賀はがきが初めて売れ残ったことがある。発行枚数は年々増えていた。けれど数が不足し、「買えない悩み」が当たり前だった頃。昭和最後の年賀はがき、1989年用である

 前年秋に昭和天皇が重篤な状態となり、自粛の空気がどっと広がったのだった。出すか控えるか、ぎりぎりまで見極めた人も多い。元日の配達数は前年の3分の2にとどまったという。一連の事情は内藤陽介著「年賀状の戦後史」(角川oneテーマ21)に詳しい

 はや迎春の話題が持ち上がる時期となった。年賀はがきの販売がきょう、全国一斉に始まる。来年5月は改元。そう、平成の賀状は最終幕を迎える

 現天皇の退位に伴うものだから、30年前のような自粛はなかろう。だが2019年用の発行数は前年より少ない24億枚余り。メールの普及で、自粛が起こらずとも「売れ残りの悩み」と闘う当今らしい

 日本郵便は「平成最後」を奇貨としたようだ。20年東京五輪へ招待する旅行券をお年玉賞品に用意し、1等賞金は3倍の30万円とした。必死さすら感じる大盤振る舞いである

 <一行の心を籠めし年始状>虚子。年賀状は年始状とも言う。元号が代わり新たな時代が始まる年。こたびは文字を打つ親指を休めてはどうか。歴史の節目に一行。手書きなら、なお心が伝わろう。