徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)

 20世紀後半に人の寿命が飛躍的に伸びた理由のひとつに抗菌薬の発見と開発があります。ペニシリンの発見から次々に抗菌薬が開発されたことによって多くの細菌感染症がコントロールされるようになりました。さらに経済的に豊かになったおかげで抗菌薬が簡単に使用でき、大勢の子どもの生命を救うことが出来るようになりました。

 しかし多くの抗菌薬が手軽に使用されるようになったことで、抗菌薬に対する感受性の乏しい細菌(耐性菌)が増加しています。今月は最近、問題になっている多くの抗菌薬に耐性を示す細菌について考えてみました。

 小児は感染症、特に細菌感染に対して抵抗力が弱く、罹ると重症化しやすい傾向があります。社会全体が貧しく栄養状態や生活環境が悪い時代には感冒や下痢で命を落とす子どもたちが大勢居ました。これらの時代のなごりで感冒による呼吸器症状や消化器症状に多くの抗菌薬を投与する傾向が残っています。

 しかし感冒はウィルス感染であり、生活環境や栄養状態の良好な我が国では抗菌薬の必要性は随分少なくなっているのです。

 抗菌薬は多種類の細菌に効く薬が優れている訳ではありません。感染原因の細菌だけに強い効果を示す薬が優れた薬です。いたずらに広範囲の細菌に効果がある抗菌薬を乱用することは、薬の効かない耐性菌を増加させます。

 広範囲の細菌に効果のある抗菌薬はどのような細菌にも効果があると勘違いしやすいものです。抗菌薬を使用する時にはどのような細菌に対して薬を効かせるのか十分に考えて使用することが大切です。