約40年前、「逃げていても差別はなくならない」と獄中から訴える男性のメッセージに心を動かされた。男性は自分と同じ境遇の被差別部落出身。刑務所で文字を覚え、「部落差別による冤罪だ」と主張していた。

 熱い思いが込み上げた。就職後も出身地を隠し続け、殻に閉じこもりがちだった「自分」と決別しようと思った。「心を解き放てば、人を信じられる。自分も変われる」

 男性は、埼玉県狭山市で女子高校生が殺害された狭山事件で犯人とされ、服役していた石川一雄さん。勤務先の労働組合の活動で一雄さんの支援活動に加わった直後だった。

 一雄さんが仮釈放された翌年の1995年、徳島市で開かれた集会で一雄さんと初めて会った。96年夏には阿波踊り見物に招いた。海水浴をしたことがないという一雄さんを松茂町の月見ケ丘海水浴場に連れて行くと、体全体で無邪気に喜んだ。「この人ともっと喜びや感動を分かち合いたい」。そんな気持ちが自然と湧き上がった。

 仮釈放から2年後の96年12月21日に結婚し、今年で20年になる。きちょうめんできれい好きな一雄さんと、おおらかで社交的な早智子さん。性格は違えど、目指す方向は同じだ。

 家事は分担しており、掃除、洗濯、アイロン掛けは一雄さんの担当。「私がすると荒っぽいので嫌がられるんですよ」と笑う。

 結婚前から飼っていた2匹の犬が、一昨年1月と今月5日に死んでしまった。家族の一員だっただけに、一日も早く無実の罪を晴らして天国に報告するつもりだ。

 狭山市で一雄さんと2人で暮らす。68歳。