徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)
子どもの感染症の中で重要な地位を占めているものに肺炎球菌があります。肺炎球菌はほとんどの小児が乳幼児期に感染し、症状のないままに鼻咽頭に定着します。
定着した肺炎球菌は3つの経路から感染症を発病すると考えられます。1つは中耳や副鼻腔へ直接入り込み、中耳炎や副鼻腔炎を起こす場合です。もう1つは直接気管支や肺胞に入り込み肺炎を引き起こす場合です。最後の1つは鼻咽腔の粘膜から侵入した細菌が血液流に乗って菌血症となる経路です。
菌血症になると血流に乗った細菌が全身の臓器に感染する可能性があります。血液、髄液、関節液、腹水など本来無菌である部位から肺炎球菌が検出される感染症を『侵襲性肺炎球菌感染症』と呼びます。
侵襲性肺炎球菌感染症の代表が髄膜炎で、その他にも肺炎、化膿性関節炎、腎炎、肝膿瘍など重篤な疾患が知られています。
肺炎球菌は様々な臓器に重症の感染症を起こす細菌です。肺炎球菌に対して使用する抗菌薬には耐性を示すものが多く、肺炎球菌感染症の治療には困難を覚えることがあります。
そこで大切なのが予防接種です。子どもに対する肺炎球菌ワクチンは鼻咽腔に肺炎球菌が定着する前に接種することが大切です。肺炎球菌ワクチンが定期接種化された後には侵襲性肺炎球菌感染症は激減しています。
抗菌薬に対して細菌が耐性を獲得する最大の理由は不必要な抗菌薬の乱用です。抗菌薬の開発は無尽蔵に行われる訳ではありません。限りある資源を大切に使用し続けるためには不必要な抗菌薬の乱用は避けたいものです。