消費者庁の板東久美子長官ら10人が、徳島県への移転に向け神山町を拠点に実施した3月14日から4日間の試験業務が終了した。浮き彫りになった課題を検証し、移転実現の可能性を展望する。
食品事故や悪質商法への対応など、消費者庁から国民への重要な情報提供や注意喚起を行う板東久美子長官の記者会見。神山町での試験業務では、情報通信技術(ICT)が活用された。
徳島に移転した場合の記者発表や報道陣の取材にスムーズに対応できるかを検証するのが目的だが、15日の板東長官の会見は、音声が途絶する深刻なトラブルが起きた。
「質問が聞き取れない」「もう1回繰り返していただけますか」
ウェブ会議システムでつないだ東京・霞が関の同庁記者会見室に、神山バレー・サテライトオフィス(SO)コンプレックスから何度も呼び掛ける長官。東京から質問する記者の声は頻繁に途切れ、前後の文脈から趣旨をくみ取ることさえ難しい状況が続いた。
神山の報道陣からは「これでは厳しい」との声が漏れ、会見室に集まった記者からも不満の声が上がった。
トラブルは同日、東京・三田であった機能性表示食品制度に関する有識者会議でも起きた。テレビ会議システムを使って出席した長官の声が途切れたり雑音が混じったりして、出席者の一部からシステムの導入に否定的な意見が上がった。
ICTを使った長官の会見や会議への出席は、移転をめぐり論点となっている「霞が関との距離的障壁を克服する手段となるのか」「行政機能が低下しないか」を検証する重要ポイントだった。
長官はシステムの導入には「限界がある」と指摘。消費者行政の重要事項を協議する場での活用はなじまないとの認識に加え、情報漏えいを防ぐ保秘システムが未整備な点も強調した。
ただ神山滞在中に行われた長官の会見は2回。有識者会議での発言も冒頭と締めくくりのあいさつだけで、検証が十分だったとは言い難い。
有識者会議の座長を務める寺本民生帝京大臨床研究センター長は「(テレビ会議でも)白熱した議論はできると思う。少しずつ試行してシステムの精度を上げればいい。より積極的にやるべきだ」と活用を促した。
消極的な発言で移転の難しさを示唆する役人トップの長官。これに対し、河野太郎消費者行政担当相は前向きだ。消費者庁や国民生活センターでICTを活用したテレワークを推進する考えで、今回、不具合のあったシステムを改修し7月に県庁で行う試験業務に臨む考えを示している。
15日夜、都内であった自民党参院議員のパーティーであいさつした河野氏は「徳島で仕事をするためにシステムをチェックする。(7月に移転の可能性を)しっかり試したい」。神山の試験業務を通じて政官の温度差がよりくっきりしてきた。