特発性正常圧水頭症患者の脳のMRI画像(上)。正常な脳(下)と比べて矢印で示す脳室が拡大している

 歩幅が小刻みになる

 【質問】70代の男性です。1年ほど前から歩くのが困難になり、歩幅が小刻みになってしまいます。脳神経外科を受診したところ、正常圧水頭症と診断され「髄液シャント術」を勧められました。血圧や血液検査はほぼ正常で、歩行障害を除けば日常生活に支障はありません。この年齢で手術を受けるのが不安で迷っています。手術のメリットとデメリットを教えてください。

 県立海部病院脳神経外科(牟岐町中村)
 影治照喜部長

 手術による症状改善率高い

 【答え】おそらく「特発性正常圧水頭症」と考えられます。原因は、頭の中を循環する「脳脊髄液」の流れが悪くなるために起こります。高齢者が発症しやすく、症状の進行は緩やかですが、放置すると次第に身体機能が低下し、最終的には寝たきりになります。

 主な症状は、すり足歩行となって転倒しやすくなる歩行障害、集中力や意欲が低下する認知障害が起きます。トイレが非常に近くなるため、尿失禁もみられます。

 特発性正常圧水頭症の検査では、コンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)で大脳の中心にある「脳室」という空間が拡大していないかチェックします。脳室拡大が確認された場合は、腰椎の間から針を挿入して脳脊髄液を少量(20~30ミリリットル)排出し、症状の改善具合を観察します。

 有効な薬物治療はなく治療法は脳脊髄液の流れをよくする髄液シャント術と呼ばれる手術になります。手術の症状改善率は非常に高く、歩行障害は約90%、認知機能低下と尿失禁も約80%に上ります。手術直後に改善することもあれば、数カ月かかることもあります。

 手術は全身麻酔で行い、約1~2時間かかります。手術方法は、腰からチューブを挿入する腰椎-腹腔シャント(L-Pシャント)と、頭部から脳室にチューブを挿入する脳室-腹腔シャント(V-Pシャント)があります。現在は、頭部の処置を必要としないL-Pシャントが主流です。

 いずれも、脳脊髄液を流す非常に細いチューブを皮下に埋め、過剰な髄液を腹腔内から排出するシステムです。チューブの途中に圧や流量を調整するバルブを入れることで、髄液の排出量を細かく調節できます。手術の傷は小さく、翌日から食事や歩行が可能です。早ければ、手術後7~10日で退院できます。

 手術に伴う合併症も説明します。シャントのような異物を体内に入れる手術では感染の恐れが生じますが、器具の進歩で安全性は格段に高まっています。髄液を流すチューブが詰まることもありますが、改善していた症状が悪化するので気付くことができます。手術後は、定期的な画像検査が大切です。

 最終的な手術の判断は、病状が改善するメリットと手術のリスクを担当医師とよく相談して決めてください。正確な診断に基づく手術は症状改善率が高く、ほかに代わる治療法がないことから、積極的に手術治療を考えてもよいと思います。ご家族が判断するのが難しい場合は、他の脳神経外科医にセカンドオピニオン(第二診断)を求めることも一助になります。