「第九」アジア初演100周年を2年後に控え、鳴門での記念事業に弾みがつく吉報が届いた。「板東俘虜収容所の寛容な風土から生まれた素晴らしい文化財。もっとPRするべきだ」。第九への熱い思いをにじませる。
毎年主催する鳴門での演奏会は6月で35回を数えた。今でこそ立ち見が出る盛況ぶりだが、2003年に理事長に就任した当初は空席が目立った。「ここまで来られたのは会の熱意あるみんなのおかげ」とねぎらう。
毎年、観客として公演を楽しむ。「皆さんの表情が生き生きとしていて、歌うことが好きなのがよく伝わる。聴衆も、それを魅力に感じて来てくださるのかな」
大阪府出身。結婚を機に鳴門に移り住んだ。夫は大塚製薬会長を務めた故大塚芳満氏。社会奉仕活動に熱心だった夫の影響で、自身も市社会福祉協議会連合会長などを務め、社会のために尽くそうと心掛けてきた。
最初に会の代表を打診されたのは、1999年に夫を亡くして間もないころ。気持ちは沈んでいたが、夫が「もっと奉仕活動をしたい」と語っていたのを思い出し、遺志を継ごうと引き受けた。
はた目には順風満帆に映る会の活動だが、理事長として演奏会の将来を案じる。「第1回からの参加者が多く、高齢化が進んでいる」。今年の演奏会ではリハーサルに市内の中学生を無料で招待した。「若い世代に関心を持ってもらい、後継の育成につなげたい」
財団法人「大塚芳満記念財団」理事長として、大学奨学金による進学支援にも心を砕く。次世代に向けるまなざしは優しい。同市撫養町南浜で1人暮らし。85歳。