琵琶湖そばにある名所・雄琴温泉(滋賀県大津市)の旅館「びわ湖花街道」で、1993年から調理長を務めている。料理人になってから40年余り。「豪華さを前面に出す料理では飽きられる。食べ終わった後、余韻が残るような料理を出したい」との信念を持つ。

 実家が料理屋だったわけではなく、「料理人になったのは偶然」と笑う。高校卒業を控えた時期に「当てずっぽうで」開いた就職情報誌のページにあったのが調理師学校だった。「食の仕事は廃れることがなく、悪くない」と即断。両親の心配をよそに古里を離れ、京都で料理を学び、そのまま洋食店で働きだした。

 自ら選んだとはいえ、修業は想像以上に厳しかった。成人式で帰省した時のこと。休み明けが近づき「ああ、また仕事か」とこぼしたところ、父から厳しい口調で叱られた。「『大変なことは分かって入ったんだろう』って言われてね。身の引き締まる思いがした」。心を入れ替え、仕事に打ち込むようになった。

 21歳で和食に転向し、旅館や小料理屋、会席料理店に務め腕を磨いた。弟子を育てつつ店を切り盛りし、料理人としての自信がついてきた38歳のころ、請われて滋賀に赴いた。

 現在は9人の職人を抱え、宿泊客らに四季折々の食事を提供している。個人の好みは多様化し、アレルギーにも配慮しなければならない。「難しい時代だが、臨機応変に対応したい」

 スダチやレンコン、なると金時…。提供する献立には徳島の特産品を多く使い、古里を身近に感じながら仕事に臨んでいる。「人生はまだまだ長い。古里で仕事をすることがあるかもしれませんね」とほほ笑んだ。

 なかがわ・さとし 美馬市脇町出身。穴吹高を経て京都調理師専門学校修了。京都の料亭旅館「鮒鶴」などで修行。2010年、全国技能士会連合会マイスター認定。13年から滋賀県日本調理技能士会理事長。花街道を運営する国華荘の取締役も務める。大津市在住、60歳。