安倍晋三首相は、ロシアのプーチン大統領とシンガポールで会談し、歯舞、色丹2島の引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎として、平和条約締結交渉を加速させる方針で合意した。

 月末、アルゼンチンで開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合で再び話し合うほか、来年1月下旬にも首相が訪ロし、改めて会談する。停滞していた領土交渉を一気に進めたい考えのようである。

 「戦後70年以上残されてきた課題を次の世代に先送りせず、私と大統領の手で必ずや終止符を打つ」。プーチン氏との23回目の会談を終え、首相は強調した。

 期限は、首相の自民党総裁任期の終了まで、残り3年を切っている。成果を焦り、北方四島の返還にこだわってきた政府方針から後退するようでは、国民の理解は得られない。安易に妥協せず、腰を据えて交渉に臨むべきだ。

 プーチン氏が9月、前提条件のない平和条約の年内締結を提案して以来、初の公式会談となった今回、ロシア側は領土交渉にも応じる姿勢を示した。両首脳は今後、「2島先行返還」も選択肢に協議を進めるのではないか、との観測が出ている。

 平和条約を締結し、先に歯舞と色丹の2島の引き渡しを受け、国後、択捉両島は継続協議とする方式だ。過去何度も浮上し消えた歴史がある。

 北方領土は第2次大戦の結果としてロシア領となっており、領土問題は存在しないというのがロシアの基本的な立場である。プーチン氏は2000年の就任直後、ソ連、ロシアの指導者として初めて、両国が批准した共同宣言の法的有効性を認めたものの、2島引き渡しで幕引きを図る姿勢は一貫している。

 共同宣言に明記されていない国後、択捉については、何の保証もない。歯舞、色丹2島の主権ですら交渉対象と主張するプーチン氏に、国後、択捉の継続協議を求めても、議論になるかどうか。

 両首脳は13年に「双方が受け入れ可能な解決策」を目指す方針でも一致している。しかしロシアはこれまで、いささかも譲歩しないばかりか、軍備を増強し、4島の実効支配をさらに強めてきた。

 ロシア側は引き渡した島々に米軍基地が置かれる事態を強く懸念している。米軍基地の除外地域とするかどうかを巡っては、米国の意向にも左右されることになる。

 そもそも歯舞、色丹の2島返還すらおぼつかない、難しい交渉となろう。

 北方領土は1945年8月、日ソ中立条約を破って侵攻してきたソ連軍によって不法に占領された、日本の「固有の領土」だ。

 菅義偉官房長官は「4島の帰属問題を解決し、平和条約を締結する立場に変更はない」と述べた。当然である。返還時期やその形態については検討の余地もあろうが、4島返還の原則は崩してはならない。