乃木坂46、欅坂46、けやき坂46の坂道シリーズ3組が史上初めて共演していることで話題の舞台「ザンビ」チームレッド公演を鑑賞しました。ストーリーや演出に関する情報がほとんど明かされず、多くの謎に包まれていた今作品。演技と歌、ダンス、そして恐怖と謎解き、アクションを融合させたスリルあり涙ありの上質なエンターテインメントとして、アイドルファン以外でも楽しめる内容に仕上がっていました。3組のメンバーが競い合ってパフォーマンスを磨くことで、坂道シリーズがさらなる高みへと飛躍する可能性を感じました。(11月18日、東京ドームシティホール)

「ザンビ」の公演パンフレット

 乃木坂46が7月8日に東京の明治神宮球場と秩父宮ラグビー場で行った〝シンクロニシティライブ〟で予告映像が解禁されて始動したザンビプロジェクト。断片的な映像は、乃木坂46の齋藤飛鳥さんを中心に多くのメンバーが出演する、ゾンビ風の設定を取り入れた学園ドラマを想起させるものでした。その後、第1弾として今回の舞台化、そして坂道3グループの初共演が発表されました。

 舞台版の公演はレッドとブルーの2チームに分けて行われ、各チームに3グループから2人ずつが参加。チームレッドは乃木坂46の与田祐希さんと山下美月さん、欅坂46の土生瑞穂さんと小林由依さん、けやき坂46の齊藤京子さんと小坂菜緒さん、チームブルーは乃木坂46の久保史緒里さんと梅澤美波さん、欅坂46の菅井友香さんと守屋茜さん、けやき坂46の柿崎芽実さんと加藤史帆さんとなっています。

 公演期間中のため詳細は明かせませんが、大まかなストーリーは、死者がよみがえって生きた人間を襲い、異形の仲間を増やしていく「ザンビ」という現象に立ち向かう少女6人の物語です。少女たちの繊細な感情の揺れとザンビの謎、人間の業などを、歌や映像、ダンスを取り入れたスタイリッシュな演出で見せていきます。本格的な舞台作品でありながら、舞台をあまり見たことがない方でも楽しめると思います。

 作品の世界観を左右する坂道メンバー6人の演技は、せりふ回しや感情表現がしっかりとしていて、一人一人のメンバーが短期間のレッスンで多くのことを吸収してきたことがうかがえます。特に与田さんが小柄な体から発する力強いオーラ、山下さん渾身(こんしん)の感情表現など、役柄が乗り移ったかのような迫真の演技には、3グループの中でも舞台経験で一日の長がある乃木坂勢の高い実力を感じました。

 舞台初挑戦の欅坂46の2人、既に舞台経験があるけやき坂46の2人も、歌唱シーンで声量がやや物足りない場面などはありましたが、大いに健闘していました。特に土生さんの凛としたたたずまい、齊藤さんの低音の声と発生の良さは舞台向きなのではないでしょうか。小林さん、小坂さんを含め4人とも基本がしっかりとしているだけに、公演回数を重ねるほどに表現力は増していきそうです。

 坂道メンバーのフレッシュな演技の脇を固めていた柿丸美智恵さんや酒井敏也さん、岡田あがささん、水橋研二さん、大胡愛恵さんといったベテラン俳優陣の熱演も光っており、思わず「うまい」と感心してしまう場面が何度もありました。こうした役者さんの生の演技の迫力に直接触れられるのが、舞台を見る醍醐味(だいごみ)だと思います。

 余談ですが、終演後にカーテンコールが3回はあるだろうと思って拍手をしていたら1回だけで終わってしまい、記者1人だけが拍手している状態になって慌ててやめました。記者がこれまでに観賞してきた「野田地図」や「大人計画」の舞台では3回以上のカーテンコールがあり、最後はスタンディングオベーション、という光景が珍しくありません。

 もちろんこれは観客が演技に満足した際に行うものです。拍手も出演者側のあいさつも単なる形式になってしまっては意味がありません。しかし、観客と出演者の心が通う瞬間はとても心地良いですし(終演後は早く帰りたいというご意見が一部にあることは承知していますが)、前述したようにこの日の演技や演出は十分に満足いく内容でした。

 坂道シリーズの舞台を見るのは初めてでしたので、これが一般的なスタイルなのかどうかは分かりません。それでも、せっかく舞台に力を入れているグループですので、もしもファンがこうした形式に慣れていないだけということでしたら、新たに定着させることで出演者も観客もより楽しむことができるのではないかと感じました。

 坂道シリーズの〝長女〟である乃木坂46は、結成当初から観客投票型の「プリンシパル」シリーズなどの舞台公演に力を入れてきました。こうして姉妹各グループで10代中心のメンバーが実力を付けてきた現状は、今後の坂道シリーズの戦略の幅を広げる強い武器になることは間違いありません。坂道メンバーの舞台作品に対する注目度は、これからますます高まるのではないでしょうか。

 同じ〝坂道の血〟が流れながら、それぞれ「純血」を守ってきた3グループ。満を持して各グループのエース級メンバーが集まった「ザンビ」は、ファンにとってまさに〝夢の共宴〟となりました。公演パンフレットのインタビューでは複数のメンバーがライブでの共演にも意欲を見せており、多くのファンも一日も早い実現を願っていることでしょう。坂道シリーズ共演の歴史的一歩となったという意味でも、記念碑的舞台として語り継がれることになりそうです。(R)