ある哲学者がこう言ったとか。富は海の水に似て、飲めば飲むほど喉が渇いてくるものだ-。この人はどうだったか。有価証券報告書に、報酬を約50億円少なく記載した疑いで逮捕された日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者である
たまに行く量販店で割引シールを探して歩く身からすれば、50億円引きと言われても雲の上の話だ。100万円が50万円、これ半額。見当がつくのは、せいぜいこの辺で、その先は想像力がかすむ。人によって金勘定の上限はまちまちらしい
深刻な危機にあった日産をV字回復させた「カリスマ経営者」との呼び声は高い。再建には主力工場の閉鎖や取引先との関係見直しなど、日本の慣行にとらわれない大なたを振るった。それが正当な額かどうか評価は分かれるが、世界の自動車大手では10億を超える報酬も珍しくない
とはいえ、働く者に痛みを強いる一方で、私腹を肥やしていたのなら、いささかも弁解の余地はない。喉の渇きは、まっとうな方法で癒やすべきだった
日産の主な顧客は、50億円といわれてもピンとはこない、普通に働く人々である。量販店で特売品を買い、ためたお金で購入する1台1台に、会社は支えられている
それを忘れるからこそ、不正は起きるのだろう。カリスマは去る。しっかりと顧客の方を向いて、出直せ、日産。