法廷での厳格な訴訟指揮とは打って変わり、廷外で見せる気さくな雰囲気が印象的だ。現場主義者を自認。20年ほど前に土地の境界争いの訴訟を担当した際は、民家の屋根に上って現場付近を見渡した。「こんな裁判官は初めてだ」と当事者は驚いたという。

 「自律性を重んじつつ、裁判官同士で議論しながらチームで仕事をする雰囲気が一番肌に合った」。司法修習生の時にこう感じ、裁判官の道を選んだ。独善的にならず、謙虚さを大切にすると心掛け、主に民事事件の裁判官として30年余りを歩んだ。

 若手時代、東京地裁で陪席裁判官を担当した採石場労働者のじん肺訴訟が印象に残る。実際に坑道の中に入って労働環境を確かめるとともに、連日、膨大な訴訟資料を読み込んだ。英文の専門誌を購読する学者肌の裁判長にも感銘を受け、その後の裁判官生活の基礎となった。

 名古屋市出身で、実家のある地域は江戸時代から続く絞り染めの「有松・鳴海絞」が特産。伯母が絞り染めの工場を経営していたので、小学生の頃は、防染用の糸を外す仕事を夏休みに手伝った思い出がある。同じ染め物の藍染が盛んな徳島に親しみを感じている。

 休日には「源泉掛け流し」にこだわった温泉巡りを家族で楽しむ。今年の正月は偶然、三好市の祖谷温泉を訪れていた。「今回、徳島に来たのも何かの縁だと思っています」と笑顔を見せた。58歳。