徳島ヴォルティスの岩尾憲キャプテンが30日、徳島市の川内中学校で講演し、3年生約160人が夢を持つことや目標に向かって努力することの大切さを学んだ。講演は、高校受験を控えた3年生が前向きに夢を追うきっかけになればと同校がヴォルティスに依頼し実現した。徳島ヴォルティスの現役選手が講演するのは初めて。
ユニフォームを着た岩尾選手は、生徒ひとりひとりと言葉を交わしながら、5歳のときにテレビで見たJリーグ開幕に感動してサッカー選手を志したこと、壁にぶつかるたびに自問自答を繰り返しながら乗り越える努力を重ねてきたことを語った。
■講演の要旨■
幸せな人生って何だろう? 僕は30歳。限りある人生の中で好きなことやりたいことに時間を使うことができるのが幸せだと30年生きてきて思います。僕は今幸せです。夢がかなって、好きなことをしてお金を稼いで、ご飯を食べています。幸せな人生を送っているから、皆さんもそうであってほしいと願っています。
みんなの好きなことや夢は何ですか? 夢をかなえるためには「圧倒的に行動する」ことが必要です。
僕が5歳のとき、今から25年前にJリーグが開幕し、テレビで見ました。たくさんの観客で埋まった国立競技場でサッカーをしている。それがこれから当たり前になるという衝撃的な映像を見たとき、鳥肌が立つほど感動し、かっこいいと思いました。「サッカー選手になりたい」と思って、5歳からサッカーを始めました。
5歳のときに抱いた夢は、みんなと同じ中学時代になっても変わりませんでした。ただ、その夢をかなえるために、常に意識していたかというとそうではありません。
当時、出身の群馬県にプロチームはありませんでした。そういうところで育ったので、プロ選手になりたいと言ったものの、どうやったらなれるの?そもそもプロサッカー選手ってどんな人?どれくらいうまいの?…と全部分からない。身近にいたら、何食べたかとかどんな練習してるのかなとか常に意識できるんだけど。目の前の目標にただ夢中で取り組むしかなかった。でも、いい加減に取り組んだわけではなくて、プロになりたいという目標があるから、質は高かったかもしれません。
夢を追いかけていると、障壁は必ず訪れます。障壁には、他者型と自分型があります。他者型…自分ではない誰か、何かによる邪魔や誘惑です。自分型…自分の能力的にできないこと、タイムが伸びないとかヘディングが苦手とか。自分型は、自分で解決しなければなりません。プロになった今でも、自分型の障壁はたくさんあります。どの道に進んでも、必ず自分の能力ではできないことが現れます。それをいかにできるようになっていくかが重要です。
僕は他者型の障壁で、強い印象を受けた出来事がありました。
中学3年のころ、塾に通っていました。塾は週3回あるけど、僕はサッカーがあるので2回しか行けない。そう塾にも伝えていたのに、ある日先生に「お前のやっているサッカーはこれからの人生にどう影響するんだ」と言われました。その瞬間に「そんなこと言われる筋合いはない」と腹が立ちました。
塾の先生にむかつくことを言われたとき、自分が何に感動して、何に達成感を得られるのかを考えました。今なら、試合に勝ったとき、自分がゴールを決めたとき、自分のパスを誰かが決めてくれたとき、勝った後サポーターがみんな笑顔…そんなとき喜びを感じます。中学時代の僕は「やっぱりサッカーが好きだ」と気がつくまでに2秒もかからなくて、すぐに「塾やめます」と言いました。それくらいサッカー選手になりたいという夢は自分の中で熱量がありました。
もし夢がなかったら、夢を信じていなかったら、先生の言葉に「ヤバい、サッカーやってる場合じゃない」となっていたかもしれません。
他人に自分の夢を壊されかけたとき、夢を持っていてよかったと感じました。夢があるから何かができるというよりも、何かがあったときに夢が自分を支えてくれる、助けてくれるんです。皆さんと同じ中3のときの出来事です。
みんなも、夢について、自分の好きなことについて考えてみてください。
【岩尾選手から生徒にインタビュー】
夢は?
生徒)「人に好かれるアナウンサーになりたいです」
きっかけは?
生徒)「小学生のころに運動会で実況する機会があって、頑張った。『すごいね』『うまいね』って言ってもらえて感動して、アナウンサーになりたいと思いました」
自分でやってみたら楽しくて、「よかったよ」と言ってくれる喜びを味わって感動したから、アナウンサーになろうと思ったってことね。
夢は?
生徒)「歌手になることです」
なぜ?
生徒)「歌うことが好き。小学校の時合唱部で、人前で歌うことを好きになって。文化祭とかいろいろなところで歌わせてもらいました」
何に感動した?拍手がうれしいとか?
生徒)「そうです!」
夢を実現するためにはやらなきゃならないことがたくさんあって、やっていくうちに必ず障壁が出てきます。誰かに邪魔をされかけたときに、自分は本当にそれが好きなのかと自問自答します。そのとき「私は絶対好きだ!」と言えるなら、大人に何と言われようが乗り越えられるはずです。僕は乗り越えてきました。障壁が現れるたびに本当に好きかどうか自問自答して、好きだからやろうと。その結果、できなかったことができるようになる。「私、できるんだ」と思ったら、さらに続けられるんです。
夢がある人は行動が伴います。練習する、勉強する。壁を前に、自分のことを考える。自分が何をしたいのか、どう生きていきたいのかを考えたときに、一層の努力をする。夢がある人はこのサイクルを繰り返します。僕自身は繰り返してきました。壁があるときも常に「サッカー選手になりたい」「サッカーで成功したい」と考えて「この課題をクリアしよう」と行動に移ります。
壁にぶつかって、自問自答して好きだからまた頑張る、でも乗り越えられない…というパターンも多いです。夢をかなえられる人が何人いるかというと、それほど多くない。好きでも何でもないことを仕事にしている人もいます。
どうしても乗り越えられないものはある。全員が全員夢をかなえられるわけではない。夢は変わってもいいんです。僕の周りでサッカー選手になれたのは僕しかいないけど、選手以外にも教えるとか、サッカーに触れることはできる。選手になれなかったけど、教員やクラブのコーチになってサッカーを教えている人に会うと幸せそうです。なぜならサッカーが好きだから。壁を乗り越えられないとき、たとえ夢が変わっても「自分の好きなこと」という軸がぶれなければ幸せでいられると思う。
どの道をいくにしても、圧倒的な努力をしない限りは夢はかなわない。そのために今、圧倒的な努力をして、乗り越えられること乗り越えられないことを経験してほしい。
今夢がない人は、なるべく早く感動に出会ってほしいな。焦らなくてもいいけど、感動は自分が動かないとやってきてはくれないので、何でもいいので行動してみる、体験してみる。普通に生活していると、なかなか感動は生まれづらい。人がやっていることに刺激されることもあります。いろいろと行動をして、自分が何に感動するのか探してみてください。
【講演後、質疑応答の時間に。生徒が質問を考える間、岩尾選手が先生にインタビューしました】
なぜ先生になろうと思いました?
先生)「小学生のときやんちゃで、怒られてばかりで学校が楽しくなかった。5・6年の担任の先生は今まで怒られていたことも叱らず、受け入れてくれて、そんな先生になりたいと思いました。本当の夢は小学校の先生だったけどなれなくて、ちょっと変更して中学校の教員になりました」
【続いて、生徒から岩尾選手へ質問】
生徒)「夢を追う中で、みんなが勉強している時間サッカーしていた分、できてない勉強があると思う。もしサッカー選手になれなかったらどうしようとか不安はなかった?」
たしかにサッカーに時間を割いた分、サッカーほど勉強をしていないのは事実です。僕は高校の教員免許を持っています。大学に行ったとき、サッカーという大きな夢の中にプロ選手と教員という二つがありました。大学に行くころになると現実的で、就職を決めなければならない。サッカーに携わりたいので、先生になってサッカーを教えたいとイメージしていました。大学では、プロ選手になりたいからサッカーはとにかく一生懸命やって、最低限勉強して教員免許をもらう。最後に舞い込んできたのがプロのスカウトで、選手になる夢がかないました。
大学の時は、がむしゃらにサッカーやってプロになる以外考えない!という感じではありませんでしたが、中学生のみんながそれを考えたほうがいいのかというと、あんまり必要ないのかな。不安だと思うけど、やりたいことに進んでいくことのほうが時間を使う価値があると思うから。
どんなことにもいいことと悪いことが表裏一体であるので、悪いほうに目を向けると、いいほうにブレーキがかかっちゃう。かなえたい夢があって本気でやっている人は、あんまりネガティブなことを考えてないです。もっと大人になったとき、現実的に考えないといけない場面で決められたらそれでいいんじゃないかな。
■生徒の感想■
槙野沙香さん(15)「夢をかなえた岩尾選手の言葉や感性に圧倒されました。アナウンサーになる夢は狭き門だけど、諦めなくていいと言ってもらえた。岩尾選手のように『圧倒的な努力』を積み重ねて、夢をかなえたい」
■講演を終えて■
岩尾選手「講演は自分にとっても新しいチャレンジで、すごく実のある時間だった。僕が緊張していると生徒にも伝わると思っていたけど、生徒がリラックスした空気をつくってくれて楽しい雰囲気になった。みんなには好きなことに自発的に取り組んで、夢に近づいてほしい」