2000年シドニーは高橋尚子、4年後のアテネ五輪は野口みずき。翌05年名古屋国際で初マラソン初優勝を遂げた新星は、金メダルの栄光を追いかけ、世界選手権で日の丸を背負った
原裕美子被告。36歳になった元日本代表は、窃盗犯として法廷に立った。スーパーで菓子などを盗んだ。昨夏もコンビニで万引を見つかり、執行猶予の身だった
一度は温情で社会に戻しても、再犯は実刑、つまり刑務所行き。それが裁判の「相場」とされている。検察は懲役刑を求めたが、裁判官は再び執行猶予とした。「今、必要なのは刑罰より治療」を選んだ
彼女を苦しめたのは、クレプトマニアという精神疾患だ。窃盗症、万引依存症とも呼ばれる。女性に多い。「やせなければ、でも食べたい」の葛藤を、吐いて解決する。食べ物に困ると、万引に手を染める。いつか、盗み自体が抑えがたい衝動となる
レースに勝つための過酷な減量。「消化する前に吐けば、怒られずに済む」。吐くことを覚えたのは、高校を出て実業団入りした年の冬だという。20年近い時間が流れている
「誰か見つけて。私を止めて」。心で叫びながら衝動と闘う患者たち。裁判官は「あなたが更生することで、似た症状に悩む人に勇気を与えられる」と励ます。病の克服を、再び走り出す人生の金メダルにしてほしい。