古代中国の伝説上の君主、堯(ぎょう)の治政も長かった。人々は満足しているか。こっそり町を訪ねると、結構な年の老人が鼓腹撃壌、腹鼓を打ち、大地をたたいて歌っていた。「日が昇ったら働いて、暮れたら休む。井戸を掘って水を飲み、田を耕して食う」

 さびの文句はこうである。「王の力など、わしらには何の関係もないじゃないか」-。人々がまるで政治を意識せずに済む、穏やかで安定した社会が、そこにはあった。徳をもって国を治めた堯は、続く舜(しゅん)と共に長く君主の模範となる

 飯泉嘉門知事が5選出馬を表明した。今のところ、波乱の風は吹いてない。県民が鼓腹撃壌を楽しんでいるからか。選挙に強いことは、その証明となるだろうか。「いや、そうではない」と、知事自身も答えるはずである

 この16年、元自治官僚らしく、そつなく県政を運営してきたことは誰しも認めるところだ。とくしまマラソンをはじめ、実績も数々ある

 それでも県民は、堯の時代のような幸福感とは、まだまだ縁遠いように思うのである。それどころか記念オーケストラ問題を筆頭に、長期政権に伴う弊害が指摘されるようになった

 人口減少など複雑多様な課題を抱えた現代は「無為」とはいかない。では何をなすか。「未知の世界への羅針盤に」と言うけれど、行き先はどこか、それが知りたい。