南海トラフ巨大地震につながる異常現象を観測した際、どうするか。中央防災会議の報告書が唱える対策は悩ましい

 東海沖から九州沖まで東西に長い震源域の半分で大地震が起きた場合、被害が出ていない残り半分の沿岸住民にも、政府が一斉避難を呼び掛けるのが柱だ。連動して発生する恐れのある大地震に備える。警戒期間は1週間ほど

 耳慣れないが「半割れケース」と言う。直近の2例はまさにこれで、いずれも東側で起きた。1854年の安政南海地震は32時間後。このタイミングなら、一斉避難も効果的だ。避難に時間が必要な災害弱者も、安全な場所で津波をかわせる

 昭和南海地震を振り返ればどうなるか。ほとほと対応に困るのである。半割れが起きたのは1944年。当地を襲ったのは46年12月21日午前4時すぎだから、時間差は2年に及ぶ

 反対側で1週間以内にM7級の地震が起きる確率は十数回に1回とされる。「空振り」覚悟で、逃げるに越したことはないが、社会生活に与える影響は甚だ大きい。1週間の警戒期間が過ぎても、危機が去ったとは言えず、避難解除の判断も難しい

 報告書を踏まえ、政府は対策指針を策定する。企業や自治体、家庭でも「半割れケース」を想定の一つに入れてスケッチを描いてみよう。防災の抜け穴を、限りなく小さく、小さく。