若さと改革意欲で大きな期待を集め、昨年5月に就任したフランスのマクロン大統領が、最大の危機に直面している。燃料税増税への抗議に端を発した大規模デモが、パリを中心に国内各地に広がっており、収束する気配がない。

 政権は燃料税の引き上げを延期するとともに、10日にはマクロン氏が国民向けにテレビ演説し、最低賃金増額などの家計支援策を発表した。

 デモが長期化すれば経済や観光はもとより、外交面への悪影響も懸念される。国民の信頼を取り戻し、事態をどう沈静化させるか。マクロン氏の政治手腕が問われている。

 デモは11月17日以降、毎週土曜日に行われ、12月8日で4週連続となった。デモの参加者は、道路工事の際などに使用する安全ベストを着用していることから「黄色いベスト運動」と呼ばれる。

 8日には全国で約13万6千人がデモに参加し、約2千人が一時拘束された。中でも、パリでは暴徒化した一部参加者と治安部隊が衝突し、30人以上が負傷したという。

 エッフェル塔や美術館、デパートなどが臨時休業したほか、一部道路や地下鉄駅も閉鎖された。放火や破壊活動、略奪も後を絶たず、早急に収拾を図る必要がある。

 マクロン氏は就任後、低迷する経済を活性化させるため富裕層や企業の税負担を軽減する一方、労働市場や国鉄改革、年金所得などへの課税を強化した。これに反発し、昨年から今年にかけてデモやストライキが相次いだものの、譲歩せずに断行してきた。

 ただ、「黄色いベスト運動」は、労働組合や政党が組織的に主導する従来のデモと異なる。特定の主催者はおらず、インターネット交流サイト(SNS)などを通じて自然発生的に行われている。

 政権へのさまざまな不満がここにきて一気に噴き出した形で、政府による譲歩策も、先行きは不透明だ。

 就任直後に64%だったマクロン氏の支持率は、直近の調査で就任以来最低の23%に落ち込んでいる。今回のデモへの対応を誤ればさらに求心力が低下し、窮地に追い込まれることになる。

 マクロン政権の弱体化は欧州連合(EU)にも影響を及ぼす。共にEUを先導してきたドイツのメルケル首相は与党党首を退任。英国の離脱も控えており、EUの結束が揺らぐ事態になりかねない。

 環境保護への国際的な動きにブレーキがかかることも危惧される。延期を決めた燃料税の引き上げは、気候変動対策の一環だ。国際枠組み「パリ協定」の履行を国際社会にアピールする狙いもあっただけに、誤算だろう。

 マクロン氏の改革への姿勢は一定の評価ができるにしても、国民には大きな痛みであり、配慮が欠けていたことは否めない。世間と距離を置き、トップダウンで統治するこれまでのスタイルを修正し、丁寧に民意を吸い上げる努力が求められる。