その先に待ち受ける大混乱を避けるための、やむを得ない判断だったと言えよう。

 英国の欧州連合(EU)離脱を巡り、メイ英首相が下院で予定していた離脱合意案の採決を延期した。与野党で合意案への反発が強く、大差での否決が確実視されていた。

 採決延期はしかし、問題を先送りしたにすぎず、今後の見通しがなお不透明であることに変わりはない。

 英国は来年3月29日に離脱することが決定している。議会で否決されれば、EUとの最終協定が発効されないまま離脱日を迎える。激変緩和の移行期間もなく一夜にして社会の仕組みが変わり、英国の内外に混乱を来すとの懸念は強まるばかりだ。

 混乱回避へ、メイ氏は離脱通知を撤回し、白紙に戻すことも考えるべきではないか。

 合意案で与野党が強く批判しているのは、EU加盟国のアイルランドと同じ島にあり、紛争の歴史を重ねてきた英領北アイルランドとの国境管理問題である。

 例外的に自由な行き来を維持しつつ税関検査を行う予定だが、具体的な方策を見いだせていない。場合によっては、英国全体のEU域内貿易を非関税のままとするなどの可能性を残した。

 肝心の部分が決まっていないだけでなく、EU残留とほぼ同等の条件になってしまう余地があり、離脱派議員は「名ばかりの離脱になりかねない」と猛反発した。

 メイ氏は来月21日より前に下院で採決する意向のようだが、所属する保守党内では「メイ降ろし」が拡大し、党首の信任投票に発展した。野党にも内閣不信任案を突き付け、総選挙に持ち込む動きがある。

 EU加盟国が認めれば、英国は離脱日を延期できる。だが、政局がにわかに緊迫化したため、事態を打開できるかは見通せない。

 国民の意見は変化している。現地の大手世論調査会社が先月末に行った調査では、離脱案への賛成は27%にとどまり、45%が反対となった。

 2年半前の国民投票で示された民意は今や逆転し、EU残留支持が過半数を占めているとの報道も相次いでいる。

 EUにしても、離脱を踏みとどまってほしいのが本音だろう。EUが離脱案に合意したのは、英国の決断を尊重したためである。

 先月末、本紙を含む共同通信加盟社の訪問団と会見したEU高官の一人は「離脱は私たち(EU)にとってハッピーではない。あの国(英国)もそうではないか」と打ち明けた。

 EUの最高裁に当たる司法裁判所が、英国が独断で離脱通知を撤回できるとの裁定を下したのも、暗にそれを促しているからだろう。

 この2年半で、国民の多くは離脱にどんな利点や難点があるか理解したに違いない。メイ氏は否定的だが、再び国民投票で民意を問う意味はあるはずだ。