官民ファンドの「産業革新投資機構」で由々しき事態が起きた。田中正明社長ら民間出身の取締役9人全員が辞任を表明し、発足から3カ月足らずで機能停止となった。

 所管する経済産業省との間で高額な報酬水準を巡り対立したのが原因だが、浮き彫りになったのは経産省の稚拙とも言える対応である。

 田中氏は「(報酬などを巡り)経産省からの提示が次々と変更された。こうした信頼関係の毀損行為が辞任の理由だ」と経産省を批判した。世耕弘成経産相も「失態」と非を認めた。

 今回の混乱で、傘下の米国ファンドを清算し、国内投資では年内の認可を目指していた3ファンドの立ち上げを凍結させるという。

 年明けから本格化させようと考えていた投資もストップする見込みだ。このまま取り組みが遅れれば、政府の成長戦略に影を落としかねない。経産省は速やかに事態を収拾しなければならない。

 9月の機構発足に際し、田中氏は投資機能の強化を目指しており「2018年度末までに(投資案件を手掛ける)新たなファンドを複数つくる」と述べていた。

 資金規模は、官民ファンドとして国内最大の2兆円で、ベンチャー育成や高い技術力のある地方企業を後押しするほか、事業再編などへの注力も期待されていた。

 ところが、経産省は先月に入って、9月に書面で提示した報酬案を撤回した。各省庁の事務次官を超える高給であり、首相官邸などから「高すぎる」との批判が出たためである。

 機構と経産省の双方で協議を続けたものの、結局折り合うことはなく、機構は当初の報酬案を基に予算申請を強行したが、経産省はこれを認めなかった。

 先端企業への投資を担う機構のトップらの報酬について経産省は事前に納得していたはずだ。田中氏らが不信感を募らせたのも当然だ。

 さらに、国がどの程度関与するのかという問題でもすれ違いを生んだ。前身の産業革新機構は国の関与が強く、液晶パネル大手ジャパンディスプレイへの投資など救済案件が多かったため、批判の声が上がった。

 これを踏まえ、経産省は改組した機構に対し、ある程度の投資判断を委ねていたようだ。しかし、その後2兆円規模に上る資金運用について一定の関与は欠かせないとして判断を覆したという。

 これまで経産省と機構側との間で、議論がどう進められてきたのか、一連の混乱からは見えてこない。

 焦点は役員の後任選びなどに移ったが、機構の必要性やガバナンス(企業統治)はもちろん、国がどう関わり、チェックしていくのかなどの問題は残ったままだ。

 政府の説明が不可欠である。機構の存在意義が厳しく問われているのを忘れてはならない。