大衆魚の代表格・マイワシの水揚げ量が徳島県で激減している。農林水産省の統計によると、近年はピーク時に比べて1000分の1から数百分の1で推移。全国的には個体数が回復傾向にあるものの、徳島近海では下げ止まりの状況だ。鹿児島県沖にあった産卵場が何らかの理由でなくなったのが原因とみられ、回復の見通しは不透明だという。

 徳島近海のマイワシの漁獲量は1970、80年代がピークで、79年には4万2600トンの水揚げがあった。しかし、90年代に入ると漁獲量は安定せず、過去50年で最も少なかった2013年は45トン、17年は約100トン(速報値)にとどまった。

 全国の水揚げ量は1988年の約450万トンをピークに海水温の上昇などで年々減り続け、2005年には約3万トンまで減少した。近年は三重県以東の個体数が増えるなど回復傾向だが、徳島近海では瀬戸内海から季節回遊のある鳴門市の一部を除き低迷している。

 阿南市の離島伊島では、かつてほぼ1年中大量のマイワシが回遊していた。現在は春の一時期に回遊があるだけで、補食するハマチなどの魚も減少したという。

 64年間漁師を続ける岡本新三郎さん(79)は「40年ほど前は港内に入り込んだ大量のマイワシが陸に打ち上がっていたが、最近はそんな光景は見なくなった。マイワシが多いと大型魚も増え、漁もにぎわっていたのだが」と振り返る。

 国立研究開発法人水産研究・教育機構中央水産研究所(横浜市)によると、マイワシは関東から九州の太平洋側沿岸で産卵し、成長すると水温の低い北へ回遊する。近年の研究で、鹿児島県沖にあった産卵場がなくなったことが分かっており、これが四国沖での回遊の減少につながったとみられている。産卵場がなくなった理由は分かっていない。

 県水産研究課は「高知県の土佐湾にも産卵場があるため年によって個体数が増えることはあるが、徳島近海は幼魚が中心となっている。『海の肥やし』とも言われる魚だけに資源が回復してくれればいいのだが」としている。