北海道地震の被災地・厚真町から少し足を延ばし、平取町に向かう。北の先人・アイヌの歴史を伝える町の一つである。萱野茂二風谷アイヌ資料館と町立文化博物館の合わせて千点を超す収蔵品が、国の重要有形民俗文化財に指定されている
生活用具などを集めた博物館の広い館内にぽつりと、漆塗りの古い椀が展示してあった。内側は赤く、端が欠けている。アイヌ語で「トゥキ」、何ほどのこともない器だったが、説明を読み息をのんだ
<昭和15年ごろに亡くなった貝沢シランペノという者の話だが、若いときに厚岸(北海道東部)の漁場に行って1年間働いた。その報酬がこの1個のお椀だったということだ。1年間の報酬がな>
奴隷のように働かされた、ともあった。江戸末期に北方探検で名を上げた松浦武四郎は、明治政府の政策に憤慨し職を辞している。アイヌを民族として認めない同化政策は近年まで続いた
人が人として扱われなかった歴史は過去のものか、と考える。人手不足で、国は来年から外国人労働者の受け入れを拡大する
さすがに椀一つということもないのだろう。しかし、今も最低賃金以下で働かされ、労災に遭う技能実習生がいる。放置したままでいいはずがない。人間に来てもらうのである。労働力パズルの、欠けたピースを埋めるような感覚では困る。