東京大薬学部長、薬学系研究科長、創薬機構長、細胞情報学教室教授など、幾つもの肩書を持っている。薬学部のマネジメントや、学生・大学院生の指導、自身の研究と、担う役割は幅広い。

 研究課題は「細胞内のシグナル伝達の解析」。紫外線や熱、薬などの刺激が細胞に強いストレスを与えると、細胞が正常な機能を発揮できなくなる。「細胞がストレスを感じて応答する仕組みと、その破たんがもたらすがんや、免疫疾患、脳神経系疾患の発症機構を解明し、治療薬を開発するのが仕事」と言う。

 歯科医から研究者に転じた”変わり種“。「受験時代はどうやって生きていこうか、可能性が広過ぎて悩み続けた。大学時代は、歯科医師という枠の中で将来が固まりすぎていく感じがして、それとの戦いだった」と振り返る。

 東京医科歯科大歯学部を卒業後、大学院に進学し口腔外科医として臨床に携わりながら、がんや骨の基礎研究に魅せられた。博士課程修了後、意を決してスウェーデン・ルードヴィックがん研究所に留学。帰国後、同大助手や教授を務め、東大教授に転じた。

 「東大の学生は優秀だが、もっとクリエーティブであってほしい。無から有をつくり出す構想力や俯瞰力、そして、自分がやらなきゃ誰がやるのかという気概が重要だ。学生時代に冒険し、挫折も経験してもらいたい」と強調する。

 父親が暮らす古里には年に4、5回、帰省する。徳島大や徳島文理大のセミナーで講師を務めることも多い。

 このところ、徳島市秋田町などの繁華街が年々寂しくなってきたと感じている。「この間、行った大歩危・小歩危と祖谷温泉は、徳島の宝物だと感じた。都会や他県と同じことをしていても、大きな発展は望めない。過疎化や不便さを逆手に取って、人を呼ぶような町おこしのアイデアがほしい」と今も身近な古里に期待している。

 いちじょう・ひでのり 徳島市出身。分子細胞生物学。城東高校から東京医科歯科大歯学部卒。同大学院博士課程修了。同大教授を経て現職。歯学博士。東京都文京区在住。60歳。