アジアで初めて開催された第4回国際老年精神医学会で発言する長谷川さん=1989年9月、東京都内(認知症介護研究・研修東京センター提供)

前を向き暮らしたい

 

 認知症が、かつて呼ばれていた痴呆症から名称変更されたのは2004年だった。認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長の長谷川和夫さん(89)は当時、厚生労働省が設けた検討組織のメンバーとして、認知症への名称変更を強く訴えた。

 「一流の専門家が集まった会議だったけれど、認知症の専門医は僕一人。痴呆という言葉は『病気で使い物にならない』とか、『もうどうにもならない』っていう悪いイメージが強いから、何としても変えなければいけないと思ったんだ」

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 長谷川さんが「長谷川式簡易知能評価スケール」を発表した1974年は、国内に診断の統一基準がなく、認知機能を数値化して検査する先進的な仕組みだった。

 「当時、都内の高齢者施設にどのくらい認知症の人がいるか調べることになってね。その際、恩師から『認知症の見立てが昨日と今日で変わってはいけない。一定の基準で判断できるような物差しをつくりなさい』と言われて、スケールをつくった」

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 スケールは、今も多くの医療現場で使われている。04年に認知症に名称が変更されてからは「長谷川式認知症スケール」と呼ばれている。

 「患者に桜、猫、電車という三つの言葉を覚えてもらい、他の質問を二つ、三つやってから、さっきの言葉を思い出してもらう。出てこなかった言葉の分だけ減点するっていう風な検査法だね」

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 今年10月、認知症をテーマにした絵本「だいじょうぶだよ~ぼくのおばあちゃん」を出版した。認知症の祖母と家族の心温まる物語が話題になっている。

 「欧米では認知症やそのケアをテーマにした絵本がたくさんあるのに、日本にはほとんどない。僕の家で実際に起きた話なんだけれど、子どもが読んでもいいし、若いお母さんが子どもに読み聞かせてもいい。出版は、少しでも認知症への理解が広まってくれたらと思ってね」

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 90歳を目前に認知症と診断され、あらためて「人生」や「生きること」について思いを巡らせている。

 「生きるというのは今とこれから来る明日を大切にするということ。過去はどうしようもないからね。なるべく笑って楽しい気持ちになって、誰かの役に立って、そして死んでいく。良く死ぬためには、良く生きていかないとね。もちろん年を取ると思いがけない病気やけがもあるから、できるかどうか分からないけど、そういう気持ちで常に前を向いて暮らしたい。そう思ってんだ」。

 

 

とはもの

 長谷川式簡易知能評価スケール 長谷川さんが1974年に発表した認知症を診断する際の簡易スクリーニング(ふるい分け)検査法。当初の11問32・5点から改良が加えられ、現在は9問30点で構成。患者に年齢や今日の日付と曜日、今いる場所などを聞き、合計点が20点以下の場合は認知症の疑いがあると診断される。