勝負の世界は非情だ。つくづく思う。国民栄誉賞を2人一緒に受けて破顔していたというのに、こうも明暗が分かれるとは。囲碁の井山裕太さんが徳島市でタイトル通算獲得数の新記録を樹立した2日後、将棋の羽生善治さんは一切のタイトルを失った。無冠は27年ぶりという

 将棋八大タイトルの一つ、竜王の防衛戦。勝てば通算のタイトル所持が100期の大台に乗る金字塔だった。負ければ無冠、「ゼロか100か」の大一番である。さすがの名棋士にも相当な重圧だったのか、対局後の表情はどこかうつろだった

 平成の元年に初タイトルを獲得した。史上初の7冠、永世7冠(いずれも当時)という偉業も成し遂げ、改元を控えての無冠転落。数多くの強豪がひしめいたとはいえ、平成は紛れもなく「羽生の時代」だった

 何かしらのタイトルに27年もの間、君臨し続けていたのは驚異的だ。後続の記録は「史上最強の棋士」の異名を持つ大山康晴さんの15年なのである

 平成の暮れに「羽生の時代」は節目を迎えたが、終焉(しゅうえん)ではない。再びタイトルを手にする可能性は存分にあるし、大山さんの持つ通算勝数記録の更新も目前に迫っている

 何せ50歳前後の「アラフィフ」の星。まだまだ輝き、同世代の背中を押してくれる人である。流星と果ててもらっては困ります、と声援を送る。