欧米の人々にとってクリスマス休暇は一大事らしい。英国ではEU離脱に関する一切の交渉や議会審議が年明けへと持ち越された。国の命運がかかる重要案件を保留にするほどだから、優先度は相当である

 歴史をさかのぼれば、戦争さえも中断させている。終結から今年100年となった第1次世界大戦。開戦から5カ月たった聖夜のこと

 前線の塹壕(ざんごう)に身を潜め、にらみ合っていた英国とドイツの兵士が、自分たちの判断で一時停戦に踏み切った。「クリスマスおめでとう」と歩み寄り、敵味方なく酒を酌み交わした。古里や家族について語らい、サッカーにも興じたという

 「クリスマス休戦」として今に伝わり、絵本にもなった。心和む史実だが、休戦があったのは大戦の初年だけ。後に、史上初の化学兵器や戦車が投入された。戦火の拡大が心の余裕を奪ったのかもしれない

 ベルギー北西部のイーペルを先月、視察で訪れた。初めて毒ガス兵器が牙をむいた街。クリスマス休戦もあったはずだが、住民が語ることはなかった。地中に残る毒ガスの不発弾によって今も被害に苦しむ

 英国出身のジョン・レノンさんは、クリスマスソングに反戦の祈りを込め「君が望めば、争いは終わる、今」と歌った。なのに争いは絶えない。「望まない」人たちの何と多いことかと、聖夜を前に思う。