展望なき政治決断と言うほかない。

 約30年ぶりの商業捕鯨再開に向け、政府はきょうにも、国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を正式決定する。期限として設定されている来月1日までに、IWCに通知する方針だ。

 協調を旨としてきた日本外交にあって、国際機関からの脱退は極めて異例のことである。捕鯨への風当たりの強い国際社会で、厳しい批判にさらされるのは間違いない。

 日本は長年、科学的データに基づき資源量を維持できる範囲で捕獲しても問題はないと訴えてきた。「クジラがかわいそう」といった感情論むき出しの反捕鯨国との間に、越え難い溝があるのは確かである。

 「不毛な議論」(水産庁担当者)の果てに、IWCが機能不全に陥っているとの現状認識も、おおむね正しいと言わざるを得ない。日本が9月の総会で提案した商業捕鯨再開案の採決結果は賛成27、反対41。捕鯨支持国すら取りこぼす惨敗ぶりで、「反捕鯨国と共存する道が断たれた」との見方も出ていた。

 しかし、だからといって脱退という強硬手段で、さらに対立をあおるのは得策とは言い難い。IWC最大の資金拠出国として、ここは冷静に考えるべきである。

 何より、捕鯨以外の分野に悪影響が及ぶ懸念がある。外務省が、年明けの日米新貿易交渉や東京五輪・パラリンピックを理由に、最後まで脱退に抵抗したのも当然だ。

 南極海の調査捕鯨は2014年に国際司法裁判所で中止を命じられ、一時停止した。今年10月にはワシントン条約の常設委員会が、北西太平洋の調査捕鯨で捕獲したイワシクジラの肉の日本国内持ち込みが商業目的で条約違反だと判断している。

 こうした状況で日本がIWC脱退の正当性を主張しても、聞く耳を持つ国は少ないだろう。トランプ米大統領よろしく国際協調を乱す存在として、マグロなど他の水産関連の協議などでも日本の態度が問題になりかねない。”第2IWC“の設立も視野に入れているようだが、果たして支持が集まるだろうか。

 そもそも商業捕鯨再開の旗を掲げても、捕獲できる量が増加するかどうかすら見通せない。日本は現在、資源調査の目的で南極海と北西太平洋でミンククジラなどを年間約630頭捕獲しているが、IWC脱退により南極海での捕鯨は国際条約上できなくなるためだ。

 低迷する鯨肉消費が反転する可能性もさほど大きくはないだろう。脱退は、漁業者の要望を受けた自民党内の声を背景にした政治決断で、消費者が望んだわけではない。

 日本の食文化を守れとの主張には共感するが、それにはしたたかな計算が必要だ。IWCがいかに絶望的な状況としても、粘り強く議論を続けるべきである。脱退には同意できない。