「クジラ寺」の別名を持つ金剛頂寺は、高知県室戸市の四国霊場26番札所。緑の木々に囲まれ、「捕鯨八千頭精霊供養塔」が立つ。当地出身の故・泉井守一(いずいもりいち)さんが釣り鐘とともに寄進した
クジラを捕るキャッチャーボートの砲手だった。15歳で南極海の捕鯨船に乗り、一時はプロ野球球団も抱えた大企業、大洋漁業(現マルハニチロ)の重役に、腕一本で上り詰めた
戦前から戦後、貴重なタンパク源として国民食とまで呼ばれた時代に、名人芸を披露した。日本人名大辞典(講談社)によれば、捕鯨頭数は9104頭とされる。弔うことまでが砲手の責任と考えたのかもしれない
クジラに限らず、牛や豚の獣魂碑など、動物の供養碑は全国に多数ある。生きとし生けるものへの感謝を忘れない。日本人の心の奥底には、そんな情が流れているのだろう
賢いから、かわいいから、クジラを守れと叫ぶ。では賢くも、かわいくもなければどうなのか。鯨油目当ての虐殺を繰り返した欧米に、日本の食文化をどうこう言われたくはない、と筆は熱くなるが、いけない、いけない。感情が先に立ち、世界とうまく渡り合えたためしはない
政府が国際捕鯨委員会側に脱退を通告した。国際機関からの脱退という極端な行動は戦後、異例のことである。損得だけで考えれば、賢明な選択とは思えない。