昨年2月8日夜、徳島市南佐古の自宅の台所で炊事をしていた父親(78)の背中を、次女(48)が刃渡り12・5センチの果物ナイフで刺した。精神障害で生きづらさを抱える娘と、懸命に世話をしながらも娘の理解し難い行動に頭を悩ませていた父。2人きりで暮らす中で関係はきしみ、「この生活から逃れるには父を刺すしかない」と思い詰めた末の犯行だった。
次女は強迫性障害と境界性パーソナリティー障害を患っていた。物事へのこだわりが強くて怒りっぽく、被害妄想に陥りやすい。他人との適切な距離感がつかめず、気に入った人には夜中に何度も電話をかけて長話をしたり、気に障ると相手を一方的に責めて怒鳴ったりした。工場などに勤めたが長続きせず、33歳の頃から自宅に引きこもるようになった。
家庭内では、一方的に毛嫌いしている兄から父に電話があれば「切れ」とわめく。「トイレが臭う」と大騒ぎし、父は自宅近くの公共施設などで何年も用を足していた。
次女は時折、父に厳しく叱られた。徳島地裁であった公判では「たたかれることもあった」と証言したものの、その理由については分からなかったという。理不尽に責められていると感じ、父への憎しみを募らせていった。
刃物で父を傷つけたのは初めてではない。事件の7年ほど前にも包丁を振り回してけがを負わせた。それ以降も包丁を持ち出すことがあり、父は防御用の木の棒を自室に置いていた。
娘に寄り添い、父子の間を取り持っていた母親は、事件の5年前に病気で倒れて入院した。一時退院したが、2016年5月に再入院。父娘2人きりで暮らすようになり、家庭内は不安定になった。
父は母の病院に通いながら家事をこなした。事件の2日前、犯行の引き金となる出来事が起こる。次女はこの日も不安定な様子で、大きな音を立ててふすまの開閉を繰り返していた。父が注意すると行動をエスカレートさせ、ののしった。父は木の棒を持ち出し、興奮する次女の手などをたたいた。
次女はショックを受けた様子で県の女性相談窓口に助言を求めたが「警察に言ってみたら」と言われただけだった。「もう、父を刺すしかない」。夕食の支度をする父の背中にナイフを突き刺した。
父は公判で「他のきょうだいと同じように愛情を持っていた。働けないならやむを得ないと思い、世話をしていた」と口にした。刺された夜は次女の要望でギョーザと唐揚げを用意し、好物の白菜のみそ汁を作っていた。
<徳島市南佐古の殺人未遂事件> 徳島市南佐古の民家で、父親の背中を果物ナイフで刺して2週間のけがを負わせた娘が殺人未遂容疑で逮捕された。3カ月の鑑定留置を経て同罪で起訴。公判では「殺すつもりはなかった」と主張したが、徳島地裁は犯行態様などから殺意があったとした。一方で、「感情が大きく揺れ動く中、衝動的に犯行に及んだ」などとして、保護観察付きの執行猶予判決(懲役3年、執行猶予4年)を言い渡した。