死体遺棄事件のあった公営住宅を調べる捜査員=2017年10月31日、徳島市

 2017年10月初めの深夜、徳島市の公営住宅に、大きな物音と人の声のような音が響くのを複数の住民が耳にした。後に何が起きたのかを知るが、当時、様子を見に行く人はいなかった。

 それから約1カ月後の31日、4階の一室で、この部屋に住む女性=当時(71)=の遺体が見つかった。女性は同居していた長女(46)に頭を扇風機で殴られていた。折れた扇風機の支柱部分には女性の毛髪や血液がこびり付いていた。相当な力で何度も殴られたのだろう。母は傷が原因で衰弱し、3日ほどたって息を引き取った。

 遺体は放置され、近所の住民が「異臭がする」と訴え出るまで見つからなかった。腐敗が進み、外傷の有無もすぐには判明しなかった。

 県警は死体遺棄容疑で長女を逮捕。その後、殺人容疑で再逮捕した。長女は母を殺害した後も毎日、ドアポストから新聞を取り込んだり、遺体の体液が流れ出ないように衣服を丸めてせき止めたりしていた。周囲の住民から不審に思われないように工作したとみられる。

 取り調べに対しては、ほぼだんまりを決め込み、口を開けば「カセイソーダが発生してお母さんは死んだ」などと、意味不明な発言を繰り返した。精神障害を抱えていたとみられる。

 母娘は2人暮らし。母は娘を時折通院させるなどしてケアしていた。部屋に第三者が立ち入った形跡はほとんどなく、ひっそりと生活していたようだ。

 公営住宅に長年住んでいたものの、親しい人はいなかった。「娘さんは働いていたこともあるけれど、長年引きこもっていたのではないか。ごみを出している姿は時々見掛けた」。住宅の管理を担当している女性はそう話すが、暮らしぶりについてはよく知らないという。

 母は普段着姿で、玄関ドアに足を向ける形で倒れていた。長女は事件前の夏ごろ、夜中に家を飛び出して警察に保護されたことがあった。捜査関係者は「夜中に外に出ようとする娘を制止しようとして、立ちふさがったのではないか。詳しい動機は分からないが、娘は腹を立てて殴ったのかもしれない」と推測した。

 追手門学院大学の古川隆司准教授(社会福祉学)は「成人になって精神障害を抱えた場合は支援の手が届きにくい。今回の事件も2人きりの生活の中で外部と接触を持つことなく、娘の問題を母が抱え込んでしまっていたのではないか」と指摘した。

 長女は3カ月間の鑑定留置の結果、犯行時に心神喪失状態だったとして不起訴処分になった。公判は開かれず、母を殺害した動機は分かっていない。1人きりになった現在は、福祉施設で暮らしているという。