「家族を孤立させてしまう社会にも責任がある」と話す古川准教授=大阪府茨木市の追手門学院大

 親子の間で殺人、殺人未遂事件はなぜ起きたのか。再発防止に向けた手だてはあるのか―。福祉の視点から触法障害者や高齢犯罪者を研究している追手門学院大の古川隆司准教授(社会福祉学)に聞いた。

 ―県内で発生した三つのケースについての印象は。

 3件とも高齢の親と中年の娘の間に起きた事件で、いずれも娘は精神的に不調だった。特に父親を刺した徳島市南佐古の娘は、幼少期から長期間にわたって生きづらさを抱えていたと推察される。今の中年世代は、周囲に適応しにくい発達障害児童・生徒への教育制度が確立されていない時代に教育を受けた。親世代も知識に乏しく、社会的な支援の枠組みからこぼれ落ちたのではないか。

 ―どうすれば事件は防げていたのか。

 どのケースの親子も社会との接点が少なく、外部に助けを求められないまま追い詰められていった。親戚でも地域の人でも学生時代の友人でもいい。相談相手がいて、適正な治療やケアサポートにつながるチャンスがあれば、恐らく事件は起きていなかった。人間関係の乏しさ、希薄さが背景にあるのではないか。

 ―ケアを必要とする人を抱える家庭はなぜ孤立し、事件へと発展してしまうのか。

 優生思想の名残がある上、精神障害者ら支援が必要な人たちに対する社会の理解が深まっていないため、その存在を隠す傾向がある。結果的に家族だけでケアを担い、家庭で問題を抱え込んでしまう。特に負担は母親ら女性に偏りがちだ。「(介護や看病など)家庭のことは女性が責任を持つべきだ」という、家父長制度に基づいた思想が根底にある。こうした性別役割分業意識も、社会から家庭を孤立させる一因となっているのではないだろうか。

 ―事件を防ぐため、周囲にできることはないのか。

 知的障害とまではいかないが、精神障害を抱えて社会に適応できない成人への社会福祉サービスは十分に整っていない。支援策を手厚くして、家庭の負担を減らすべきだ。一方で、家族を孤立させてしまう社会にも責任の一端がある。私たちは隣人、知人の異変に気付いても「誰かが助けるだろう」との傍観者意識を持つ傾向にある。一人一人が社会を構成する一員としての自覚を持ち、他者の苦しみや「しんどさ」に対する想像力を働かせることが大切だ。