それは大変だったと連れ合いが言う。具合の悪くなった飼い猫を病院で診てもらった帰り、みゃーみゃーと車中でわめき通し、うるさくて、うるさくて。怖かった、痛かった、注射2本に点滴だよ、と猫なりに訴えていたのだろう

 こちらの猫も雌2歳。約1カ月の出来事を、随分と飼い主に話して聞かせたに違いない。静岡市で先月、行方不明になった飼い猫が約170キロ離れた名古屋市で保護された

 「こんなに遠いところで見つかって飼い主の元に戻るのは、聞いたことがない」と市動物愛護センターの担当者は言う。猫に埋め込まれていたマイクロチップで住所や飼い主の氏名などが分かったという。ちょっとかわいそうな気もするが、備えあればの帰還である

 170キロといえば、三好市を出発し、徳島駅前を経由して、海陽町の向こうまで。牟岐町で俳人・種田山頭火の投宿碑に寄っても、おつりがくる

 <しぐれてぬれてまつかな柿もろた>。おじいさんは好々爺(や)、おばあさんはしんせつで、と山頭火は牟岐の印象を書き残している。漂泊の迷い猫も同様に、どこかで誰かの親切を受けながらの長旅だったのだろう

 名古屋市では年200~300匹の猫を保護するが、チップの装着例はほとんどないそうだ。わが家に戻ることのできたのは数匹だとか。飼い主の思いやりが生きた。