今思うに、一昨日の大相撲結び前の一番は意味深だった。横綱・稀勢の里が平幕の栃煌山に寄り切られた場面。激しい取り組みが最後に一転栃煌山は横綱をそっと土俵の外に出した。まるで全てを悟り、今までご苦労さまといたわるかのように。2人は学年が同じ。言わずとも通じるものがあったか

 稀勢の里が現役引退を表明した。「私の土俵人生において、一片の悔いもございません」。生真面目で辛抱強い。衆目の認める人柄がにじむ潔い弁だった

 横綱としては悔しい土俵が多かったに違いない。最高位を極めて挑んだ初めての場所で、大胸筋を部分断裂。力士人生の致命傷となる。完治しないまま出場しては他の箇所も痛める悪循環に陥り、途中休場を重ねた

 <功遂げて身退くは、天の道なり>。役割を果たせば、さっさと引退するのが素晴らしい―と老子は説くものの、出処進退の判断は悩ましい。稀勢の里は痛みを押して挑み続けた。懸命な姿は痛々しくもあった

 綱への責任感はもちろんだが、なにせ19年ぶりの日本出身横綱である。期待を裏切らぬと、無理をしたのは想像に難くない。生真面目があだとなったなら惜しまれる

 在位12場所と短いが、記憶に残る横綱であろう。横綱・白鵬の連勝記録を63で止めた人でもある。かなうならば、新元号での土俵入りを見たかった。